ファイナル第1日目・記者会見【レポート】

2015.12.06|オフィシャルレポート

12月5日、ついにファイナルの1日目です。

ファイナルの協奏曲は、指揮者との打ち合わせ、そして本番前々日、当日計2回のリハーサルの機会が与えられます。
昨日のレポートで、協奏曲は6人すべてがロシアもので、ラフマニノフ、プロコフィエフ、チャイコフスキーだと書きましたが、もともと課題曲の選択肢には......

モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、リスト、ブラームス、サン=サーンス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフ

と、かなりいろいろな作曲家の名前があります。

そんな中で偶然ロシアものだけがファイナルの演目となったのでした。
とはいえ、6人全員がばらばらの作品で、しかも作曲家も違うとなったら、聴く方は楽しいですが、演目決定からリハーサルまで時間のないオーケストラと指揮者は大変そうだな......という気もしないでもありません。

さて、日中のリハーサルも終わり、18時からいよいよ演奏が始まります。共演は、高関健さん指揮、東京交響楽団。

20151206b01000.JPG


大ホールの客席はほぼ満員。ファイナルでは聴衆賞が設けられているので、終演後、来場者は入口で配られた投票用紙を良いと思ったファイナリストのボックスに投票することになっています。

20151206b02000.JPG

一人目の演奏者となったのは、アレクサンダー・メリニコフさん(ロシア)。
演目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、使用ピアノはカワイです。

オーケストラの前奏に続き、メリニコフさんのピアノが冒頭のメロディを奏でたところで、彼の鳴らす憂いのある深い音はラフマニノフに合うんだなとしみじみ感じます。まろやかな音がロシアの空気と香りを再現するような、落ち着いた演奏。
管楽器がメロディを奏でる後ろに、絶妙な抑揚でたゆたうようなピアノから、メリニコフさんの経験値の高さがよくわかります。一方同時に、1階席で聴いていると、オーケストラのボリュームが大きな場面でピアノの音がなじみすぎて聴こえる部分がありましたが、審査委員席のある2階などで聴くと違うのかもしれません。
さまざまなタッチでいろいろなニュアンスの音を引き出し、詩的なラフマニノフの世界を創出しました。

20151206b03000.JPG

続いて登場したのは、最年少ファイナリストであるダニエル・シューさん(アメリカ)。演奏するのはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、使用ピアノはスタインウェイです。

冒頭の序奏から、前の奏者とは対照的な、輪郭のクッキリした明るい音を鳴らします。オーケストラの音楽を受け、輝かしくドラマティックな演奏を返していく。先程とはまったく別のラフマニノフの魅力で、聴く者を惹きこみます。
そのさわやかに前進する音楽は、ときに素早く駆け抜けていってしまうように感じられる箇所もありましたが、華のある音楽は、確かに聴衆の心を掴みます。しっとりと味わうというよりは、"考えるな、感じて!"とうったえかけてくるような、若々しく生き生きとした演奏でした。



20151206b04000.JPG


最後の奏者となったのは、アレクサンデル・ガジェヴさん(イタリア)。使用ピアノはカワイ。

ずしりとした重厚なラフマニノフが2曲続いたあとで、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の冒頭の音楽が始まると、爽やかに風が吹き抜けるような感触。これと同じ気分を、前回優勝したイリヤ・ラシュコフスキーさんがファイナルで同曲を演奏したときに感じたことを、ふと思い出します。
豊かな表情を持つプロコフィエフ。第1楽章のラストは、信じられないスピードで駆け抜けてゆきます。その後もガジェヴさんは、その場で次々と物語が生まれ出すような、自然発生的な音楽を聴かせます。クライマックスでオーケストラと拍がずれる場面もありましたが、最後までエネルギッシュに駆けぬけました。



◆ファイナル1日目終演後 記者会見

終演後の大ホールロビーでは、海老彰子審査委員長、マルタ・アルゲリッチ審査委員、セルゲイ・ババヤン審査委員による記者会見が行われました。

豪華な顔ぶれによる記者会見が一般公開で行われるということで、多くの方が足を止めて熱心に聞き入っていました。
海老彰子審査委員長のあいさつに続き、アルゲリッチさん、ババヤンさんが言葉を続けます。

20151206b06000.JPG

アルゲリッチ審査委員

「大変レベルが高く、感銘を受けています。私は2次からしか審査に参加していませんが、1次から聴けたらどんなによかっただろうと思っています。みなさん優秀な音楽家で、演奏を聴くことを楽しんでいます」

ババヤン審査委員

「今この場にいることは、私の人生を一回りして戻ってきたような感覚です。私が優勝した1991年のこのコンクールのファイナルで演奏したとき、演奏前、アルゲリッチさんの弾くリストのピアノ協奏曲第1番をずっと聴いていました。私は当時ニューヨークに一人で暮らしていて師匠と呼べる人がいませんでしたので、彼女のピアノが私の師匠のようなものでした。そんな師匠と、今こうして同じ審査員として隣に座っていられるのは、特別なことだと感じています。
これまで何度か審査委員をしてきていますが、今までで最高の経験となっています。6人がみんな特別な才能を持っているので、決断は非常に難しいものになるでしょう。成熟している人、若くエキサイティングな演奏をする人など、私たちは彼らをよく聴いてできるだけ客観的に、誠実な決定を下さなくてはいけません」


◇質疑応答

Q. 審査の基準について

海老審査委員長

「1次は10人、2次からは11人の審査委員で審査にあたっています。それぞれ、半世紀以上の音楽的経験から、アーティストとしてこれから飛び立つ芸術性を、それぞれの審査員が判断しました。次も聴きたいか否かのイエス/ノー方式で、点数制ではありません。集計結果については相談しませんので、多数決で決断を下しています」


Q. 最終審査結果の対象となる演奏について

海老審査委員長

「ルールとしては、ファイナルと3次予選の印象ということになっています。でも1次から聴いている印象を消すことはできません。他の審査委員の方々も、バランスよくトータルにお考えになるのではと思います」

アルゲリッチ審査委員

「私は1次はここにいませんでしたが、今は1次も本当に聴きたかったという想いでいっぱいです。2次からはすべての演奏を記憶に刻んでいます。私が良いと思った方で3次に残らなかった方もいます。ファイナルは、良いと思った方がみんな通ったので満足しています。ここまで聴いた全ての演奏が記憶に残っているので、これを含めて結果を考えるのが自然だと思っています」

ババヤン審査委員

「もしも1次の演奏の後に優勝者を決めなくてはならなかったら、別の人が選ばれていたと思います。課題曲、演奏時間が異なる中で、1次ですばらしい演奏をした人が、必ずしも2次やセミファイナルの長い演奏時間でずっと人の気持ちを惹きつけられるかというと、そうではありません。セミファイナルではモーツァルトの室内楽を演奏し、ここでまたいろいろな側面が見えました。ファイナルに残った面々は、全ステージを通じ、一定して良い演奏をした方々です。
最終決定は3次、ファイナルで出すことになっていますが、私たちの人生にすばらしい時間を与えてくれた演奏を、記憶から消すことはできません。それらは判断の中にとりこまれていくと思います」





文 ・ 高坂はる香

  • 一覧へ戻る
2015.12.06
ファイナル第1日目・記者会見【レポート】

12月5日、ついにファイナルの1日目です。

ファイナルの協奏曲は、指揮者との打ち合わせ、そして本番前々日、当日計2回のリハーサルの機会が与えられます。
昨日のレポートで、協奏曲は6人すべてがロシアもので、ラフマニノフ、プロコフィエフ、チャイコフスキーだと書きましたが、もともと課題曲の選択肢には......

モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、リスト、ブラームス、サン=サーンス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフ

と、かなりいろいろな作曲家の名前があります。

そんな中で偶然ロシアものだけがファイナルの演目となったのでした。
とはいえ、6人全員がばらばらの作品で、しかも作曲家も違うとなったら、聴く方は楽しいですが、演目決定からリハーサルまで時間のないオーケストラと指揮者は大変そうだな......という気もしないでもありません。

さて、日中のリハーサルも終わり、18時からいよいよ演奏が始まります。共演は、高関健さん指揮、東京交響楽団。

20151206b01000.JPG


大ホールの客席はほぼ満員。ファイナルでは聴衆賞が設けられているので、終演後、来場者は入口で配られた投票用紙を良いと思ったファイナリストのボックスに投票することになっています。

20151206b02000.JPG

一人目の演奏者となったのは、アレクサンダー・メリニコフさん(ロシア)。
演目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、使用ピアノはカワイです。

オーケストラの前奏に続き、メリニコフさんのピアノが冒頭のメロディを奏でたところで、彼の鳴らす憂いのある深い音はラフマニノフに合うんだなとしみじみ感じます。まろやかな音がロシアの空気と香りを再現するような、落ち着いた演奏。
管楽器がメロディを奏でる後ろに、絶妙な抑揚でたゆたうようなピアノから、メリニコフさんの経験値の高さがよくわかります。一方同時に、1階席で聴いていると、オーケストラのボリュームが大きな場面でピアノの音がなじみすぎて聴こえる部分がありましたが、審査委員席のある2階などで聴くと違うのかもしれません。
さまざまなタッチでいろいろなニュアンスの音を引き出し、詩的なラフマニノフの世界を創出しました。

20151206b03000.JPG

続いて登場したのは、最年少ファイナリストであるダニエル・シューさん(アメリカ)。演奏するのはラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、使用ピアノはスタインウェイです。

冒頭の序奏から、前の奏者とは対照的な、輪郭のクッキリした明るい音を鳴らします。オーケストラの音楽を受け、輝かしくドラマティックな演奏を返していく。先程とはまったく別のラフマニノフの魅力で、聴く者を惹きこみます。
そのさわやかに前進する音楽は、ときに素早く駆け抜けていってしまうように感じられる箇所もありましたが、華のある音楽は、確かに聴衆の心を掴みます。しっとりと味わうというよりは、"考えるな、感じて!"とうったえかけてくるような、若々しく生き生きとした演奏でした。



20151206b04000.JPG


最後の奏者となったのは、アレクサンデル・ガジェヴさん(イタリア)。使用ピアノはカワイ。

ずしりとした重厚なラフマニノフが2曲続いたあとで、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の冒頭の音楽が始まると、爽やかに風が吹き抜けるような感触。これと同じ気分を、前回優勝したイリヤ・ラシュコフスキーさんがファイナルで同曲を演奏したときに感じたことを、ふと思い出します。
豊かな表情を持つプロコフィエフ。第1楽章のラストは、信じられないスピードで駆け抜けてゆきます。その後もガジェヴさんは、その場で次々と物語が生まれ出すような、自然発生的な音楽を聴かせます。クライマックスでオーケストラと拍がずれる場面もありましたが、最後までエネルギッシュに駆けぬけました。



◆ファイナル1日目終演後 記者会見

終演後の大ホールロビーでは、海老彰子審査委員長、マルタ・アルゲリッチ審査委員、セルゲイ・ババヤン審査委員による記者会見が行われました。

豪華な顔ぶれによる記者会見が一般公開で行われるということで、多くの方が足を止めて熱心に聞き入っていました。
海老彰子審査委員長のあいさつに続き、アルゲリッチさん、ババヤンさんが言葉を続けます。

20151206b06000.JPG

アルゲリッチ審査委員

「大変レベルが高く、感銘を受けています。私は2次からしか審査に参加していませんが、1次から聴けたらどんなによかっただろうと思っています。みなさん優秀な音楽家で、演奏を聴くことを楽しんでいます」

ババヤン審査委員

「今この場にいることは、私の人生を一回りして戻ってきたような感覚です。私が優勝した1991年のこのコンクールのファイナルで演奏したとき、演奏前、アルゲリッチさんの弾くリストのピアノ協奏曲第1番をずっと聴いていました。私は当時ニューヨークに一人で暮らしていて師匠と呼べる人がいませんでしたので、彼女のピアノが私の師匠のようなものでした。そんな師匠と、今こうして同じ審査員として隣に座っていられるのは、特別なことだと感じています。
これまで何度か審査委員をしてきていますが、今までで最高の経験となっています。6人がみんな特別な才能を持っているので、決断は非常に難しいものになるでしょう。成熟している人、若くエキサイティングな演奏をする人など、私たちは彼らをよく聴いてできるだけ客観的に、誠実な決定を下さなくてはいけません」


◇質疑応答

Q. 審査の基準について

海老審査委員長

「1次は10人、2次からは11人の審査委員で審査にあたっています。それぞれ、半世紀以上の音楽的経験から、アーティストとしてこれから飛び立つ芸術性を、それぞれの審査員が判断しました。次も聴きたいか否かのイエス/ノー方式で、点数制ではありません。集計結果については相談しませんので、多数決で決断を下しています」


Q. 最終審査結果の対象となる演奏について

海老審査委員長

「ルールとしては、ファイナルと3次予選の印象ということになっています。でも1次から聴いている印象を消すことはできません。他の審査委員の方々も、バランスよくトータルにお考えになるのではと思います」

アルゲリッチ審査委員

「私は1次はここにいませんでしたが、今は1次も本当に聴きたかったという想いでいっぱいです。2次からはすべての演奏を記憶に刻んでいます。私が良いと思った方で3次に残らなかった方もいます。ファイナルは、良いと思った方がみんな通ったので満足しています。ここまで聴いた全ての演奏が記憶に残っているので、これを含めて結果を考えるのが自然だと思っています」

ババヤン審査委員

「もしも1次の演奏の後に優勝者を決めなくてはならなかったら、別の人が選ばれていたと思います。課題曲、演奏時間が異なる中で、1次ですばらしい演奏をした人が、必ずしも2次やセミファイナルの長い演奏時間でずっと人の気持ちを惹きつけられるかというと、そうではありません。セミファイナルではモーツァルトの室内楽を演奏し、ここでまたいろいろな側面が見えました。ファイナルに残った面々は、全ステージを通じ、一定して良い演奏をした方々です。
最終決定は3次、ファイナルで出すことになっていますが、私たちの人生にすばらしい時間を与えてくれた演奏を、記憶から消すことはできません。それらは判断の中にとりこまれていくと思います」





文 ・ 高坂はる香

一覧に戻る

主催

  • 浜松市
  • 浜松市文化振興財団

特別協賛

  • ANA
  • 遠鉄グループ
  • JR東海
  • KAWAI
  • Roland Foudation
  • 三立製菓株式会社
  • YAMAHA
〒430-7790 静岡県浜松市中区板屋町111-1 公益財団法人浜松市文化振興財団内  TEL:053-451-1148  FAX:053-451-1123
MAIL : info@hipic.jp URL : http://www.hipic.jp
Copyright (c) Hamamatsu International Piano Competition.
All rights reserved.
Powerd By Ultraworks