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2018.11.30 Official Report

【公式】ヤン・イラーチェク・フォン・アルニン審査委員 インタビュー

「本当に聴衆に幸せを届けたいなら、作品をよく理解してから演奏すべきです」

 

ー浜松コンクールの印象はいかがでしょう?

 技術的に大変レベルが高いことに感銘をうけています。これほど多くの若者が、時間とエネルギーを注いで音楽家を目指しているとは、実にすばらしいことです。

 ピアニストのキャリアを築くことは簡単ではありません。まず、良い家庭環境、先生、ピアノに恵まれていなくてはいけませんし、その上で才能を披露するための場が必要です。その意味で、浜松コンクールは世界トップクラスのコンクールの一つとして、すばらしい役割を果たしています。審査員として招かれたことを光栄に思っています。

 私は中村紘子さんの親しい友人として長らくお付き合いさせていただき、日本に来たときにはいつも食事をご一緒していました。彼女はこのコンクールと浜松国際ピアノアカデミーを大きくすることに尽力されました。日本の顔であり、国際コンクールのシーンでは信頼のあつい審査委員として活躍しました。2013年のパデレフスキ国際ピアノコンクールではともに審査委員をつとめ、すばらしい時間を過ごしました。一緒においしいものをたくさん食べて、ポーランドのウォッカも飲みましたよ!

ー中村紘子さんは、浜松コンクールやアカデミーで若い才能を多く発掘しましたね。10代半ばで見出した才能もたくさんいます。

 そうですね、彼女は若い才能を見出す能力に長けていました。実は私もそういうことが得意なほうなので、彼女とはとても話が合いました。若い方は、その時点では演奏がパーフェクトではないかもしれませんが、大きな可能性を秘めています。コンクールというものは、すぐに盛んな演奏活動をできる人を見つけることだけが目的ではなく、ときには背中を押す才能を見つける場でもあるべきだと、私は思います。例えばショパンコンクールに優勝したあとは、忙しくて落ち着いて勉強する時間が減ってしまうかもしれません。ですが浜松コンクールの優勝者は、もちろんコンサートツアーも行うけれど、スケジュール的に勉強して成長する余裕があるはずです。音楽家は常に学び続けなくてはいけません。

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ー例えば10代半ばの若い才能を評価するとき、その後本物の音楽家になる可能性がありそうだという判断は、どこで見極めるのでしょう?

 それはみんなが知りたい疑問ですね(笑)。多くの要素が備わっていなくてはなりません。まず優れたテクニックが必要なのはひとつ。加えて大切なのは、演奏する喜びを感じている人かどうかです。

 例えば、私はクリスチャンで教会に行きますが、そこで神父が聖書について語るとき、この人物が、読んだことを本当の意味で理解しているか、想像力やカリスマ性があるか、そして、人の心を惹きつける魔法のような力を持っているかは、瞬時にわかります。一方で、例え神父として長い経験がある人でも、自分はなんでまたここに立ってこの話をしないといけないんだ...などと思っている人なら、わかります。誰かの話を聞いたとき、それがあなたに語りかけてくるかどうかは、すぐにわかるものです。とはいえ、とても若い人は何かのきっかけで才能が花開かずに終わることも、さらには自分で音楽家にならないと決めてしまうこともあるかもしれません。でも、ひとりでも多くの才能ある人にチャンスを与えることは大切です。

 あまりに低年齢だと、優勝には若すぎるという意見が出ることもあるかもしれませんが、それに影響されてその人がチャンスを失うべきではないと私は思います。個人的には、歳は関係なく、その音楽が自分に語りかけるか否かだけを重視したいと思います。

ーコンクールでは、ときには14歳と30歳を比べて評価しなくてはいけないこともありますよね...

 とても難しいことです。年長のコンペティターは、ある作品を何年も弾き込んできたうえ、長らくいろいろな先生に見てもらってステージに臨んでいます。一方、若くて急に体が成長したようなコンペティターの中には、自分の体を動かすコントロールすら十分でないと見受けられる人もあります。そういう方は、音楽家として成長するのにもう少し時間がかかるとは思いますが、ポテンシャルがある場合は明らかにわかります。

 そんな状況で評価を下すのはとても難しいですが、その意味で、審査委員が大人数なのはいいことです。多くの要素が絡み合って判断が下されることになりますから。私たちには知識と経験があるので、適切な決断を下すことができていると思います。

ーコンクールの選曲で気をつけるべきことはなんでしょうか。

 私は基本的に気を使ってものを言うほうです。相手に敬意を払い、理解しようとしています。ですが今回ははっきりいって、コンペティターのプログラムの選択に何度もフラストレーションを感じたと言わねばなりません。多くの人が、誤った選択をしていました。例えば、どれだけたくさんの人がリストのピアノソナタを選んだでしょう...それは果たして、3次予選に最善の選択といえたのでしょうか?

 自分がリストのソナタを誰よりもすばらしく演奏できると思うのなら、3次予選で弾けばいいと思います。でも、もし確信しきれていないのなら、もしくは少しでも明確でない部分があるのなら、そこで演奏すべきではありません。一生懸命練習したと思いますが、このステージでその曲を演奏することがどういう意味を持つのかを、彼らは全然わかっていないと思いました。もちろん、一番大切なのは才能や音楽家としての精神が優れていることですが、才能があることをどのように伝えるかは、コンクールではとても重要なことです。

 単に、誰かが3年前にこれを弾いて優勝したみたいだから選ぼう、ということではダメなんです。ベートーヴェンのソナタだって、Op.109Op.110ばかり選んで弾いているんですから...もっと別の作品、たとえばOp.22なんかを選んでもいいのに、なぜ晩年のソナタばかり選択するのでしょう。怒りすら感じましたね。

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ー大舞台でこんなに深い作品を弾こうというのは、ある意味勇気がありますよね。

 ...そうですね。それはとても気を使ったものの言い方ですね(笑)。

ーいえ(笑)、本当にそう思うところもあって。例えばあるコンペティターは、リストのソナタを弾くことを先生から反対されたけれど、自分自身のこれからのためにあえて挑戦したといっていました。

 なるほど、そういうこともあるのかもしれませんね。まあ、誰しも人生で間違いは起こしますから。重要なのはその経験から学ぶこと、そして、それは間違いだと言ってくれる誰かを信じることです。みなさんお若いですから、こうしたマスターピースに深い繋がりを感じることがあるのかもしれません。それを勉強するのはすばらいしことです。ただ、本当に自分が言いたいことを確信できた後でなければ、それをコンクールで演奏することは勧めません。言いたいことがない作品を演奏したところで、誰が聴きたいでしょうか。

 本当に聴衆に幸せを届けたいと思うなら、作品をよりよく理解してから演奏するべきです。

ーレパートリーとして何を選ぶべきでないかはわかりましたが、それでは、何を選ぶのが正解なのでしょう。

 自分の心に従って選ぶべきです。どうしたら勝てるかを考えるべきではありません。今回のコンクールでは、興味深いレパートリー、輝かしい瞬間もたくさんありました。でも全体的に見て、レパートリーが限られていることにがっかりしました。コンクールは、自分の能力を見せるための大切なショーケースだというのに。

 そんな中、モーツァルトの室内楽という課題はすばらしいと思います。ピアニストの音楽性をあらわにします。

 私が審査委員として考えていた問題は、その音楽がモーツァルトらしいものなのか否かを、ちゃんと伝えなくてはいけないということでした。私はウィーンに拠点を置き、ウィーン古典派のレパートリーを専門として活動しているので、他の人よりその伝統をよく理解しているつもりです。そのため、コンペティターの作品へのアプローチがあまりにエスプレッシーヴォだったり、ルバートが過剰だったりすると、少し悲しくなりました。プロコフィエフやラフマニノフならいいかもしれませんが、古典派でそれをやってはいけません。彼らはそのことを知らないのだという事実が、私を悲しませたのです。もしかすると、彼らはウィーン古典派のレパートリーにはあまり注意を払ってこなかったのかもしれません。私自身は、それがすべての基本だと思っているのですが。

 リストはチェルニーの弟子で、チェルニーはベートーヴェンの弟子でした。リストはジロティの先生で、ジロティはラフマニノフの先生でした。作曲家たちはこうしてつながっています。ラフマニノフ自身による演奏の録音を聴くと、彼が古典派のスタイルを理解していたことがよくわかります。好き勝手にルバートやクレッシェンドするといった、感じることに従うだけの演奏はだめなのです。

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ーモーツァルトの演奏には様式があるということは、ピアニストでなく、クラシック音楽を聴くことが好きな愛好家の立場ですら知っている基本的な知識のように思いますが...どうして専門で勉強している若いピアニストがそのことを知らないのでしょう。先生の問題ですか?

 そうですね。まずは先生でしょう。それから、もうひとつはYouTubeですね。有名なスターピアニストがモーツァルトを演奏してるのを聴いて、十分な知識もないまま、コレいいじゃない!なんて思ってしまうことが問題でしょう。

 時代のトレンドも影響しているかもしれません。最近は、なんでもロシアもの風にすること、つまり、クレッシェンドやデクレッシェンド、ルバートをたっぷり効かせて新しい表現を求めることが流行しているように思います。でもそれは、古典派のスタイルではないのです。古典派の作品を演奏するうえでは、自然な流れとエレガンスが大切です。ダンスの感覚を大切にすべきです。早く踊ったり遅く踊ったりするダンスではありませんよ。適切な間やテンポ感を大切にしたダンスです。

 モーツァルトを弾くときは、何かを無理に操作してはならず、音楽を自然と語らせなくてはいけません。それを実現するには、知識や常識が必要です。2019年の3月には、ピアノ教育連盟の企画でウィーン古典派の音楽について日本でレクチャーとマスタークラスを行います。日本のピアノの先生方のためにこうしたお話ができることを、とても嬉しく思っています。

ー審査する中で、次のステージに進んでほしいと思うのはどういうピアニストでしたか?

 言葉で説明することは簡単ではありません。今回は、みんなが技術的には高い水準で演奏しています。これは昔に比べると大きな進歩です。しかし私が本当に求めているのは、説得力のある音楽ができる人です。技術やパートリーを披露するのではなく、本当に音楽で言いたいことがある人の演奏は、聴きたいと思います。

 このピアニストは本気で音楽をつくろうとしている、そして私に語りかけていると感じた時、自分はこういう人を求めていたのだと思います。そういう瞬間は、今回のコンクールでもありました。たくさんではありませんけれどね。

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ー今の時代はコンクールが多く、優勝してもキャリアは約束されません。そんな厳しい時代を生き抜くために、若いピアニストはどうすべきなのでしょう?

 私はコンクールで優勝したこともありますが、自分のことを思い起こすと、コンクールでもっとも多くのものを得たのは、実は、ヴァン・クライバーンコンクールで「優勝できなかった」ときです(笑)。その時の演奏を聴いたマネージャーが私を信じてコンサートに招いてくれて、それを評論家が取り上げてくれたことがきっかけで、活動が広がりました。そこで、「優勝」よりもこうしたことが大切なのだと気づきました。

 どんなコンクールも、キャリアを保証してくれません。コンクールが目的としているのは、若者に聴かれる場を与えることです。今は、インターネットでも演奏を聴くことができ、2次予選に進めなかったコンペティターでも人に名前を覚えてもらえるチャンスがあります。

 また、コンクールはレパートリーを100パーセントの状態、全ての音がよく考えられている状態に準備する機会としても有効です。本選まで進めないこともあるかもしれませんが、自分が成功しなかった理由は何かを考えることこそが大切です。そしてそのとき、自分を駆り立ててもっと勉強すべきだと思うのか、それとも、これは自分の道ではないと決断するのか。これもまた重要です。みんながピアニストとして成功できるわけではありません。これ以上自分を鼓舞して学び続けることは難しいとか、向上は望めないと思ったときは、辛いかもしれませんが、ピアノの道を離れる決断を下す必要もあります。

 音楽家の人生は厳しいものです。自分はすごいんだ、世界が自分を待っているんだと無理に言い聞かせ続けることは、意味がないんです。だって世界はあなたのことなど待っていないのですから。自分の本当の幸せを見つけなくてはいけません。

ー厳しいですね。

 はい、厳しいです。でも、音楽家として何かを持っているけれど技術が足りていないなら、違う楽器を選ぶとか、指揮の道に転身するとか、教えることに専念するとか、ピアニストとして活動する以外にも道があります。もちろん、音楽以外の道に進んだっていい。それでも、あなたがそこまでの人生で学んだことは大きいし、努力してきたことには意味があります。

ー自分を知るということが重要ですね。

 そうですね。そして常に、自分を最初に置かないことも重要です。若い人にとっては難しいことかもしれませんが、自分は音楽に仕える者だということを忘れてはいけません。

 優れた作品は、魔法のようなすばらしい存在です。こうした作品を勉強できるのは幸せなことで、そこに新しい光をあてて人に届けるのが使命であること、それらはすべて、自分のために行うのではないということを、忘れてはいけません。


(文・高坂はる香)

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