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【公式レビュー】第1次予選 2日目後半

2012年11月12日|スタッフレポート

ホールに響く最初の音に魅了されることは、音楽体験の中でもトップに入る素敵な瞬間のひとつだ。今日のいくつかの演奏には、そんな嬉しさを与えてくれるものがあった。

 ロマン・マルチノフさん(ロシア/20歳)は、ステージのだいぶ手前でふわりとお辞儀をし、ピアノに向かった。長身でひょろりとした、なにか不思議な空気をまとった青年だ。そんな風貌のせいもあって身構えて最初の音を待つと、温かく丸くハッキリとした音が鳴り響き、バッハの平均律第2巻ロ長調が始まった。重い音で奏でられるバッハ。すでに、続くベートーヴェンをどのように演奏するのかが楽しみになってくる。ワルトシュタインは、粗削りなところもありつつ、鍵盤を這うように動き回る指先からがっしりとした音が紡がれる。なにか人を高揚させるようなところのある演奏だ。最後にはショパンの子守歌という選曲。これもどちらかというと眠れなくなりそうな子守歌であるが、音楽としてとてもおもしろく美しい。
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  アンナ・ツィブラエワさん(ロシア/22歳)は、黒いパンツスーツで登場。最近ロシアの女性ピアニストの間ではドレスよりスーツが流行なのだろうか。
  時折跳ねるようなリズムを挟んだ、カッチリと美しいバッハ。音がしっかりと重いところに、ロシアの香りを感じる。そしてさらに音にきらめきを加え、モー ツァルトはコロコロと転がるような楽しい演奏。最後を飾ったハンガリー狂詩曲第12番では、ひとつのドラマのような音楽を展開する。音にはメランコリック な気配が漂い、陰影がはっきりと描かれる演奏だった。

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 最年少コンテスタントのひとり、ツァイ・ミンハオさん(台湾/15歳)は、グレーのスーツにキラキラしたデザイン・タイ、手には黄色のハンカチを握り、ニコニコ満面の笑みで登場。豊かでボリュームたっぷりのバッハが実に印象的だ。ベートーヴェンのソナタ第31番も、太い音で表情豊か。ハンガリー狂詩曲第6番は、行進曲のような勇ましさとともに始まり、丁寧に美しく弾ききって高い技術を見せつけた。正面、左右、そして再び正面を向いて深々とお辞儀をし、ステージをあとにした。

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 チュエン・ホンボーさん(中国/27歳)は、ステージに登場すると少し長い間をとってから演奏スタート。優しく穏やかなバッハ平均律第2巻嬰ヘ短調、そこからがらりと雰囲気を変えて生き生きとしたモーツァルトのソナタ第9番。そして、続くショパンの華麗なる変奏曲が効果的に配置される。持ち前のきらびやかな音が存分に活かされ、落ち着いて聴いていられる良い演奏だった。自分の長所を示すプログラミングの大切さをつくづく感じる演奏だった。

 休憩をはさんで登場したのは、シュ・ユインジーさん(台湾/15歳)。もうひとりの最年少コンテスタントである彼女は、すでに現在ジュリアード音楽院に留学中だ。裾が長く後ろに流れる真っ赤なドレスで登場。そのイメージにぴったりマッチするかのような力強いバッハが演奏された。ベートーヴェンのソナタ第22番も実に豊かな音量。今日の15歳組は、揃って音のボリュームがすごい。ショパンのスケルツォ第4番も、華やかで粘りのある、生き生きとした演奏を聴かせた。20121111005so.jpg
 


 石田啓明さん(日本/18歳)も、バッハの平均律で始める。ベートーヴェンのソナタ第16番は軽やかな会話が繰り広げられるような演奏。リストの「詩的で宗教的な調べ」より「葬送」は、美しい抑揚が聴衆を心地よい集中に引きこみ、ひとときコンクールであることを忘れるような時間だった。

 この日最後の奏者となった、今西泰彦さん(日本/28歳)。冒頭のバッハの平均律第1巻ト短調で、はっとするような鋭く煌めく最初のトリルの音が、一気にホールの空気を変える。チェンバロだろうか、オルガンだろうか、ピアノ以外の何かの楽器を思わせる音がかわるがわる現われる。実際あとでお話を伺うと、チェンバロなどの古楽器を学んだことがこの音づくりに活かされているということだ。続くシューベルトのソナタ第7番では、見事に美しく音を響かせる。最後にはシューマンの花の歌を、語りかけるようなピアノで聴かせた。切なさがこみ上げるような優しい演奏で、今日一日の演奏の最後を飾った。


◇演奏を終えて……

チュエン・ホンボーさん

─1次予選のステージはいかがでしたか?

と てもよかったと思います。ピアニストにとって、うまく聴衆に届くようにブリリアントな音を奏でられるかどうかはとても重要な問題です。ピアノ選びの時ス テージで弾いてみて、ホールが大きいので少し心配はありましたが、今日の皆さんの反応を見る限り、大丈夫だったのかなぁと。
 

─あなたの音の良さが際立つとてもよいプログラミングだったように思います。とくに、ショパンの「華麗なる変奏曲」は印象的でした。この曲を選んだ理由は?

この作品は演奏される機会が少なく、とくにコンクールで弾く人はあまりいないかもしれませんが、ショパンの初期の好きな作品なので選びました。全体的にも、僕自身の良い側面を見てもらえる作品ばかりを選んだつもりです。

─これまでにもすでにいろいろなコンクール経験がおありかと思いますが、今回はなぜ浜松コンクールに参加されたのですか?

長い歴史のあるコンクールですし、とても良いコンクールだと人から聞くことが多かったので。これまで日本に来たことがなかったこともあり、応募しました。

─初めての日本、浜松の印象はいかがですか?

とてもすばらしいです!

─何か浜松の名物は食べてみましたか?

まだです。食べたいな。でも、それはコンクールが終わってからですね。

─次のステージも楽しみにしています。

ありがとうございます。まずは結果のアナウンスを待たなくては!

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今西泰彦さん

─演奏を終えて、いかがですか?

 あっという間でした。お客さまがたくさんいらしてくれたのがとても嬉しかったです。僕自身には、聴きに来てくれた方々の“機嫌をとる”ような演奏はするべきではない、プログラムや音楽表現、そして舞台のマナーなどすべての面で、そういうことはしたくないという考えがあります。それなので、純粋に良い曲だと思う作品を選びました。人前で弾くのが初めてのものばかりでした。

また、コンクールというと無意識にこういう解釈でないといけないのではないかという考えが起きてしまいがちなので、今回はコンクールに向けたレッスンなどは受けずに自分の中で音楽を創っていきました。こういうことは初めてだったので、自分にとって大切な場となりました。

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─浜松コンクールを受けることにした理由は?

 実はずっと受けるつもりはなかったんです。比較すること、点数をつけること が、芸術と相反するような気がして、コンクール自体があまり好きでなかったこともあります。楽曲の本当の中身から離れてしまった、自分本位にアピールする ような音楽には共感できません。ですが、地元浜松のコンクールに自分が出場することでメディアに取り上げられ、浜松でもっとクラシック音楽が育ってゆくこ とに貢献できたらいいという想いがあって、最後に応募することにしたんです。

─ご自身のためではなく音楽界のためにコンクールを!

 ……そうですね(笑)。一応そういう決意で臨んだので、パワフルで自分をアピールできるものというのではなく、ひとつのステージとして、良い曲だったなぁと思ってもらえる作品を選んだつもりです。


─現在はミュンヘンにお住まいですか?

 はい。もうすぐ日本に戻る予定です。

─ステージに現れて、バッハの最初の音でぐっと引きこまれました。

 ミュンヘンではチェンバロ科で勉強していました。チェンバロであの作品を弾く時は、最初のトリルをほとんど全力で演奏するような感じなんです。

チェ ンバロ科では、モダンピアノで学ぶのとは違う、細かいアーティキュレーション、フレーズ感というものを学びました。バッハの平均律をチェンバロで弾いたときの感覚から、それではピアノでどのように演奏するかを考えました。バロック音楽の「バロッコ」は“歪んだ真珠”という意味ですから、現地の演奏家の表現 は人間味あふれるドラマティックなものも多いのです。バロックオーケストラやオルガンで演奏されているようなバッハを演奏したいと思っていました。

 

高坂はる香

 

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