アレクシーア・ムーサさん(第3位)インタビュー

2015.12.28|出場者・審査委員インタビュー

1989年、ギリシャ人の父とベネズエラ人の母のもとギリシャに生まれたムーサさん。ギリシャで幼少期を過ごし、現在はベネズエラに暮らしています。クラシックだけでなくブルース、サルサ、ジャズ、レゲエなどさまざまな音楽が好きだという彼女の演奏は、そんな視野の広さを示すかのように、情熱的で枠にとらわれない自由さを持っていました。
10月に行われたショパン国際ピアノコンクールでも注目を集めていたムーサさん。ゆっくりお話を伺ったところ、あたたかい心を持つ可愛らしい女性だと改めて感じました。


─3位おめでとうございます。結果はいかがですか?

うれしいです!


─10月のショパンコンクールに続き、このコンクールもようやく終わって、今なにがしたいですか?

両親の住んでいるギリシャに1週間くらい滞在してから、ベネズエラの家に帰ります。7月からずっと練習ばかりで夏は良い時間を過ごせなかったので、少し休暇をとりたいですね。でもその後はまた新しいレパートリーを練習するか、今あるレパートリーをもっと深めていくか、少し考えるつもりです。


─3週間のコンクール中、一番印象に残っていることは?

だいたい毎日、演奏の準備、練習、食事という感じですから特別に印象的なことは起きていないんですが......良い仲間たちに出会えてすばらしい時間を過ごすことができたと思います。
あとは、"いろいろな人の表情"でしょうか。コンクール中たくさんの人に会いました。さまざまな世話や案内をしてくれた方々とは、その一瞬会うだけの関係なのに、とても心あたたかいコミュニケーションができてすてきだと思いました。静かな毎日の中に小さな出会いがたくさんあって、すごくよかったです。

PC3_0117.jpg


─日常の中であなたの音楽にインスピレーションを与えるのはどんなことですか?

作品によります。一つの作品についても、長く弾いているうちに全く違う発見が出てきたり、別のアプローチをするようになったりすることもありますが、そのきっかけが何であるかはその時によりますね。音楽のスタイル、テイスト、自分の耳や技術と、いろいろな要素を組み合わせて一つの満足する音楽をつくっていきます。


─ところで、ドレスはご自分でお作りになったということですが、他にもお洋服などいろいろ作るのですか?

はい。このバッグも自分で作りました。ファイナルで着たドレスは、コンサートドレスとして2着目の作品です。母が基本を教えてくれて、2年まえから自分で勉強しながら作っています。でも、ぜんぜん完璧じゃないんですよ。あちこち気になるところはあるんですが......でも、完璧じゃなくていいんです。というより、完璧じゃないほうが良いでしょう(笑)。
こうしてピアノ以外のことも楽しんでいます。いつも一つのことばかり考えているより、いろいろなことに関心を持ったほうが、自分の中に静かなものを持っていられますからね。


─もともとピアノを始めたきっかけは?

ピアノを弾いていた母の影響です。彼女は服をつくることのほうが上手ですけれど。
8歳からレオニード・マルガリウス先生とアナ・クラフチェンコ先生のもと勉強し始めました。12歳からはイタリアに移って、イモラで9年勉強しました。子供の頃は、無理に練習していると感じたり、プレッシャーを感じたりすることは一切ありませんでしたね。


─ところで、ファイナリスト発表後の記者会見で、"クラシック音楽は一部の特別な人のためのものではなく、みんなに楽しまれるべきものだ"と話していたことが印象に残っています。そう感じるようになったきっかけは?

いつもそう感じているんです。若い友人の中には、私がクラシックのピアノを弾いているというと、クラシックは上品で特別なものだから理解するのが難しい、コンサートには行ってみたいけれどわかわらないから行きづらいと言う人がよくいます。
確かにクラシックの世界には、一部、排他的な考えを持っている人もいるかもしれません。それを感じるからという理由で、どうせ聴きに行ってもわからないし、チャンスもないからとずっと聴かないままになってしまう若い人が多いと感じるのです。
今私の住んでいるベネズエラでは、ホールに子供や普通の人たちがたくさん来ています。その状況が本当に好きです。聴きたいと思う人にはいつでもそのチャンスが開かれていますから、除外されていると感じることも一切なく、自分たちで好きな音楽を発見して、熱狂しています。


─それはすばらしいですね。一方で確かに、歴史や作曲家のことを知ることでより楽しめる音楽だという考え方はありますもんね......。

そうなんです。勉強するのは良いことですが、ただ聴くということも良いことだと私は思います。細かな知識を持って注意深く聴くと、いろいろなことを感じることができるとは思いますが、何も知識がなくても、それはそれで違うものが見えるはずでしょう。私たち演奏家が理解しているように、聴く人全員がいろいろなことを理解していなくてはいけないはずはありません。
クラシック音楽は一種のエンターテイメントであり、他の音楽と同じです。もちろん、複雑で深い音楽だとは思いますが、過剰に特別扱いをされる必要はないと、個人的には思っているのです。


─ベネズエラでは、エル・システマ(若者のための音楽教育システム)から誕生したシモン・ボリバル・ユースオーケストラが今では世界で演奏活動をするようになり、さらにはドゥダメルのようなスター指揮者も出てきたんですもんね。それでは今、ベネズエラでは多くの人がクラシックのコンサートを聴いているんですね。

はい、本当にたくさんの人がクラシックを聴いていますよ。無料のコンサートもたくさんありますし、街中でもあちこちで演奏を聴くことができて、それが普通のことになっています。そういうところが、本当に好きです。

PC1_9696.JPG


─ところで、クラシックのピアニスト以外の道を考えたこともありますか?

他の音楽も演奏したいと思って、一時期ブルースやサルサを勉強しようとしたこともありますが、クラシック音楽を勉強するときほど強いものを感じませんでした。クラシック音楽のアカデミックな勉強は簡単ではありませんが、やはり強く惹かれます。でもやはり、インプロビゼーションの演奏ももっとできるようになりたいので、勉強したいです。
ピアノを弾くということ自体は、一度も辞めることなく続けてきています。もちろん、なんでピアノを弾いているのだろうと考えたことはありますけれど、18歳から28歳くらいの若い間には、そういう気持ちが起きるのは普通のことでしょう。もう今は迷っていません。


─クラシックで、ラテン系のレパートリーも増やしていくことには興味はありませんか? コンクール中はそういったレパートリーを聴くことはありませんでしたが。

そうですね。好きなのですがあまり演奏していません。いつか、タイミングが来たら勉強すると思います。自分に合っているだろうとは思うんですが(笑)、今はまだ、先にやらないといけないことがあると思うから。


─ピアニストとしての夢や、音楽を通して伝えたいことはありますか?

音楽を通して何かを伝えたいとか、私の言いたいことをわかってほしいとか、そういうことは考えていません。聴いてくれる人たちの前で、自分自身であるということが大切だと思います。もちろん、演奏を聴いて感動したと言ってもらえたらうれしけれど、感動させようと思ってステージに立つつもりもありません。自分が演奏したものを、聴く人が好きなように受け取って、感じてくれたらいいと思っています。
ピアニストとして生活を立てていくのは決して簡単なことではありません。でもこれからも、ピアノとともに生きていくことができたらと思います。

PC1_9091.JPG
文・高坂はる香
  • 一覧へ戻る
2015.12.28
アレクシーア・ムーサさん(第3位)インタビュー

1989年、ギリシャ人の父とベネズエラ人の母のもとギリシャに生まれたムーサさん。ギリシャで幼少期を過ごし、現在はベネズエラに暮らしています。クラシックだけでなくブルース、サルサ、ジャズ、レゲエなどさまざまな音楽が好きだという彼女の演奏は、そんな視野の広さを示すかのように、情熱的で枠にとらわれない自由さを持っていました。
10月に行われたショパン国際ピアノコンクールでも注目を集めていたムーサさん。ゆっくりお話を伺ったところ、あたたかい心を持つ可愛らしい女性だと改めて感じました。


─3位おめでとうございます。結果はいかがですか?

うれしいです!


─10月のショパンコンクールに続き、このコンクールもようやく終わって、今なにがしたいですか?

両親の住んでいるギリシャに1週間くらい滞在してから、ベネズエラの家に帰ります。7月からずっと練習ばかりで夏は良い時間を過ごせなかったので、少し休暇をとりたいですね。でもその後はまた新しいレパートリーを練習するか、今あるレパートリーをもっと深めていくか、少し考えるつもりです。


─3週間のコンクール中、一番印象に残っていることは?

だいたい毎日、演奏の準備、練習、食事という感じですから特別に印象的なことは起きていないんですが......良い仲間たちに出会えてすばらしい時間を過ごすことができたと思います。
あとは、"いろいろな人の表情"でしょうか。コンクール中たくさんの人に会いました。さまざまな世話や案内をしてくれた方々とは、その一瞬会うだけの関係なのに、とても心あたたかいコミュニケーションができてすてきだと思いました。静かな毎日の中に小さな出会いがたくさんあって、すごくよかったです。

PC3_0117.jpg


─日常の中であなたの音楽にインスピレーションを与えるのはどんなことですか?

作品によります。一つの作品についても、長く弾いているうちに全く違う発見が出てきたり、別のアプローチをするようになったりすることもありますが、そのきっかけが何であるかはその時によりますね。音楽のスタイル、テイスト、自分の耳や技術と、いろいろな要素を組み合わせて一つの満足する音楽をつくっていきます。


─ところで、ドレスはご自分でお作りになったということですが、他にもお洋服などいろいろ作るのですか?

はい。このバッグも自分で作りました。ファイナルで着たドレスは、コンサートドレスとして2着目の作品です。母が基本を教えてくれて、2年まえから自分で勉強しながら作っています。でも、ぜんぜん完璧じゃないんですよ。あちこち気になるところはあるんですが......でも、完璧じゃなくていいんです。というより、完璧じゃないほうが良いでしょう(笑)。
こうしてピアノ以外のことも楽しんでいます。いつも一つのことばかり考えているより、いろいろなことに関心を持ったほうが、自分の中に静かなものを持っていられますからね。


─もともとピアノを始めたきっかけは?

ピアノを弾いていた母の影響です。彼女は服をつくることのほうが上手ですけれど。
8歳からレオニード・マルガリウス先生とアナ・クラフチェンコ先生のもと勉強し始めました。12歳からはイタリアに移って、イモラで9年勉強しました。子供の頃は、無理に練習していると感じたり、プレッシャーを感じたりすることは一切ありませんでしたね。


─ところで、ファイナリスト発表後の記者会見で、"クラシック音楽は一部の特別な人のためのものではなく、みんなに楽しまれるべきものだ"と話していたことが印象に残っています。そう感じるようになったきっかけは?

いつもそう感じているんです。若い友人の中には、私がクラシックのピアノを弾いているというと、クラシックは上品で特別なものだから理解するのが難しい、コンサートには行ってみたいけれどわかわらないから行きづらいと言う人がよくいます。
確かにクラシックの世界には、一部、排他的な考えを持っている人もいるかもしれません。それを感じるからという理由で、どうせ聴きに行ってもわからないし、チャンスもないからとずっと聴かないままになってしまう若い人が多いと感じるのです。
今私の住んでいるベネズエラでは、ホールに子供や普通の人たちがたくさん来ています。その状況が本当に好きです。聴きたいと思う人にはいつでもそのチャンスが開かれていますから、除外されていると感じることも一切なく、自分たちで好きな音楽を発見して、熱狂しています。


─それはすばらしいですね。一方で確かに、歴史や作曲家のことを知ることでより楽しめる音楽だという考え方はありますもんね......。

そうなんです。勉強するのは良いことですが、ただ聴くということも良いことだと私は思います。細かな知識を持って注意深く聴くと、いろいろなことを感じることができるとは思いますが、何も知識がなくても、それはそれで違うものが見えるはずでしょう。私たち演奏家が理解しているように、聴く人全員がいろいろなことを理解していなくてはいけないはずはありません。
クラシック音楽は一種のエンターテイメントであり、他の音楽と同じです。もちろん、複雑で深い音楽だとは思いますが、過剰に特別扱いをされる必要はないと、個人的には思っているのです。


─ベネズエラでは、エル・システマ(若者のための音楽教育システム)から誕生したシモン・ボリバル・ユースオーケストラが今では世界で演奏活動をするようになり、さらにはドゥダメルのようなスター指揮者も出てきたんですもんね。それでは今、ベネズエラでは多くの人がクラシックのコンサートを聴いているんですね。

はい、本当にたくさんの人がクラシックを聴いていますよ。無料のコンサートもたくさんありますし、街中でもあちこちで演奏を聴くことができて、それが普通のことになっています。そういうところが、本当に好きです。

PC1_9696.JPG


─ところで、クラシックのピアニスト以外の道を考えたこともありますか?

他の音楽も演奏したいと思って、一時期ブルースやサルサを勉強しようとしたこともありますが、クラシック音楽を勉強するときほど強いものを感じませんでした。クラシック音楽のアカデミックな勉強は簡単ではありませんが、やはり強く惹かれます。でもやはり、インプロビゼーションの演奏ももっとできるようになりたいので、勉強したいです。
ピアノを弾くということ自体は、一度も辞めることなく続けてきています。もちろん、なんでピアノを弾いているのだろうと考えたことはありますけれど、18歳から28歳くらいの若い間には、そういう気持ちが起きるのは普通のことでしょう。もう今は迷っていません。


─クラシックで、ラテン系のレパートリーも増やしていくことには興味はありませんか? コンクール中はそういったレパートリーを聴くことはありませんでしたが。

そうですね。好きなのですがあまり演奏していません。いつか、タイミングが来たら勉強すると思います。自分に合っているだろうとは思うんですが(笑)、今はまだ、先にやらないといけないことがあると思うから。


─ピアニストとしての夢や、音楽を通して伝えたいことはありますか?

音楽を通して何かを伝えたいとか、私の言いたいことをわかってほしいとか、そういうことは考えていません。聴いてくれる人たちの前で、自分自身であるということが大切だと思います。もちろん、演奏を聴いて感動したと言ってもらえたらうれしけれど、感動させようと思ってステージに立つつもりもありません。自分が演奏したものを、聴く人が好きなように受け取って、感じてくれたらいいと思っています。
ピアニストとして生活を立てていくのは決して簡単なことではありません。でもこれからも、ピアノとともに生きていくことができたらと思います。

PC1_9091.JPG
文・高坂はる香

一覧に戻る

主催

  • 浜松市
  • 浜松市文化振興財団

特別協賛

  • ANA
  • 遠鉄グループ
  • JR東海
  • KAWAI
  • Roland Foudation
  • 三立製菓株式会社
  • YAMAHA
〒430-7790 静岡県浜松市中区板屋町111-1 公益財団法人浜松市文化振興財団内  TEL:053-451-1148  FAX:053-451-1123
MAIL : info@hipic.jp URL : http://www.hipic.jp
Copyright (c) Hamamatsu International Piano Competition.
All rights reserved.
Powerd By Ultraworks