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2018.12.26 Official Report

【公式】 小川典子審査委員長 インタビュー

「 "ハママツに行くと、たとえ入賞しなくても良いことがある"。そう思ってもらえるコンクールに 」

コンクール終了後におこなったメールインタビューです。




まず、優勝したチャクムルさんの音楽が評価されたポイントは何だったでしょうか。コンクール前、そろそろ浜松から世界に直接ピアニストを送り込む時期だとおっしゃっていましたが、その手応えはいかがでしょう?

 チャクムル君が1位になったことについての審査委員全体の考えは、その後もみなさんと演奏について話し合っていませんので、私には今もわかりません。私は一切、誰の投票用紙も見ていませんし、投票傾向もわかりません。

 私個人的なことで申し上げれば、総合的な点数がチャクムル君を優勝に導いた、と言わざるを得ないと思います。後から分かったことですが、チャクムル君は私にとって、DVD審査で最も印象に残ったピアニストでした。画面で見た彼は、鍵盤を自分のものとして自由自在に演奏していたことをハッキリと記憶しています。チャクムル君が優勝した理由は、私の意見としては、

(1)自分の伝えたい音楽がハッキリしている。舞台がコンクールであることを忘れさせてくれる演奏。慣れ親しんだ曲でも、こんな解釈があったのかと思わせる新解釈を、説得力をもって挑戦、披露してくれた。

(2)それを支える演奏技術がある。

(3)舞台に出ることが自然な出来事であり、室内楽、協奏曲において、他の奏者との関係を築くことができ、マナーがしっかりしている。

 という3点です。(3)は、今すぐ演奏活動を始めてもらいたいと思っていた私は、審査委員長として非常に大切なポイントと考えました。披露演奏会の朝、チャクムル君と実務的な話をしましたが、彼は英語やドイツ語に堪能で、いろいろなことを良く理解するピアニストだと感じました。CD録音についての連絡事項も本人がサクサクこなしてくれています。私たちは、チャクムル君の「音楽家としての離陸」を助けることになります。無事に離陸をしたら、あとは自分の力で飛び続けてほしいと思っています。

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ーまた、牛田さんのようにすでに演奏活動をしているピアニスト、イ・ヒョクさんのような新しいタイプのピアニストなど、個性豊かな面々が入賞しましたが、各入賞者の印象をお聞かせください。

 国内での知名度が抜群の牛田君が出場してくださったことについては、私としては、一種の驚きをもって迎えました。良く勇気をもって、そして最後まで集中力をもって弾ききってくれたと思います。完成度が高く、ソロの舞台に慣れている、プロのすばらしい演奏家だと思いました。私自身は、2次の演奏が出色だったと感じています。

 イ・ヒョク君・・・確かに新しいタイプですね。第3次予選で聴いた「くるみ割り人形」では、劇場に連れて行ってもらったような気持ちになりました。いろいろな音楽を聴いて参考にしているようなので、これからさらに研鑽を積み、ヒョク君ならではの味をもって世界に出てほしいと強く感じています。

 今田君、務川君、安並君は、「侍トリオ」とお呼びしたいくらい、彼らの潔い姿勢、真摯な姿勢、音楽にまっすぐに取り組む姿勢に強い共感と感動を覚えました。3人は今回大きな注目を浴びたので、それを活用して、どんどん演奏活動を展開してほしいです。そのことが、浜松コンクールをさらに層の厚いコンクールにしてくれます。頑張ってほしいと心の底から感じています。


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ー各ステージの結果発表で「次のステージで演奏していただきたい方は・・・」とアナウンスされていたことが印象に残ります。そこにはどんな想いがあったのでしょうか。

 気づいていただき、ありがとうございます! 私は、自分が出場者として各段階を経験している・・・1次でダメだったことも、途中まで行ったことも、入賞経験もあるので、「〇〇さんは次に進みますが、呼ばれなかった人たちはダメです~!」と言う雰囲気だけは避けたかったのです。惜しくも次へ進めなくても票の入っているピアニストは多いですし、本番で演奏にのり切れず、自分も納得でダメな場合もあります。

 今回のコンクールでは、フィードバック・セッションの際に積極的に声をかけ、浜松市内で行われるコンサートに参加してもらえるように話をしました。「次のステージで・・・」と言う表現には、そこに理由がありました。


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ー今回はBBC交響楽団のポール・ヒューズさんのような、ピアニストとは別の視点を持つ方も迎え、年齢層も国籍も幅広い審査委員のみなさんが審査にあたられました。また、コンペティターも、経歴や師事歴が明記されませんでした。そういったことは、今回の審査結果にどんな影響を与えたと感じますか?

 浜松は、アジアで最も大きく、最も権威ある国際コンクールとの自負があります。ですので、できるだけ世界各国から多様な審査委員を集めるよう工夫しました。一人一人、丁寧に選択したつもりです。これは本当に「運」だったと思いますが、11人は本当に本当に仲良くなり、いつも一緒にいたいくらい、笑いのたえない仲良し審査委員団となりました。そういった親密な人間関係を築くことにより、審査委員室でたとえ意見が違っても、お互いを尊重する気持ちが強くなったと思います。

 今回のコンクールは大変な高水準でしたので、1次から本選まで、接戦の局面もありました。その中で、誰もが冷静に、丁寧に、規則を守って投票を続けられたことは、本当に良かったと感じています。また、一切の話し合いはせず、今も演奏に関してのディスカッションはしていません。11人がそれぞれ主観をもって審査をしたとご理解いただけると良いかと思います。

 プログラムに経歴や師事歴を記さなかったのは、世界的傾向を大きく意識してのことです。私は9月から、日本人として初めて国際音楽コンクール世界連盟の役員理事の一人になり、最先端のコンクール事情を知ることができています。また、AAFAlink-Argerich Foundation)とも大変仲良くさせていただき、数々の貴重な助言をいただいています。

 先入観を持たないで聴くということは、今の国際コンクールの現場では大切だと深く感じ、それを重視しました。


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ー審査委員長としてコンクールの審査に携わって、改めてコンクールについて感じたこと、発見した意義や難しさはありますか?

 ピアノは密室から密室の楽器です。一人で練習をし、一人でレッスンに通います。なかなか人と知り合う機会はありません。それは、弦楽器や管楽器の方々と決定的に違うことです。極端なことを言えば、天才演奏家がいても、誰にも知られずにいることだって可能な楽器なのです。

 コンクールは、そんな密室で頑張っているピアニストたちが「音楽業界の有力者たち・・・音楽事務所、オーケストラ事務局、放送局の人、レコード会社の人、音楽ジャーナリスト、評論家、会館、音楽祭主催者などを知らなくても、平等に舞台に立ち、多くの人たちに聴いてもらい、注目してもらうことができる最短の道」だと思っています。それが、コンクールの最大の意義ですね。出場ピアニストの視点で見ると、コンクールの準備は、「技術も音楽的にも完璧な状態にもっていこう!」と意気込んで練習すると思いますので、必ず上達します。それも大きな意義だと思います。

 難しさは、コンクール出場は「義務」ではない、ということです。なので、どこにどんな才能が潜んでいるのか、彼らがどこから飛び出してくるのか、わかりません。今は、国際ピアノコンクールだけでも数百、小さいものを入れれば約800もコンクールがありますので、自分の身の丈に合ったコンクールを選んで出場することが大切ではないかと思います。

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ー審査委員の先生方のインタビューでは、プログラムの選択の大切さがよく語られました。うまく選択ができていた人、そうでなかった人がいたかと思いますが小川さんは今回の参加者のプログラミングを見て、どう感じていましたか?

 「コンクールなので超絶技巧を弾いて目立たなければ!」と考えて、本当は好きではないのに無理をして勉強をした曲が入っていると上手くいかない・・・このことを、みなさんにわかっていただきたかったです。

 特に日本では「苦手なものを克服する」という考え方が美徳とされていますが、ピアノに関して言えば、「得意科目だけどんどん伸ばしましょう」と考えたほうが良いですね。苦手な曲は、それを得意とするお友達が弾いてくれますので、あなたが克服する必要はありません。

 浜松は選曲がかなり自由ですので、好きな曲、得意な曲、愛する曲で勝負してもらいたい、と思います。

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ーまた審査委員のお話に、音楽性はもちろん、人間性やコミュニケーション能力のお話が出ることも多かったです。コンクール優勝がキャリアの保証とならない今、若いピアニストがこの先長く活動するために大切なことはなんでしょうか。

 音楽家の生活は、いつの時代も保証されていなかったと思います。私も、子どものころから、お兄さんお姉さんピアニストたちが、いろいろな不安について先生と話し合っている場面を見てきました。

 ピアニストとして生きていくためには、演奏がきちんとしていることが最も大切ですが、コミュニケーション能力、事務仕事能力、体力、気力、いろいろなものが「パッケージ」としてできあがっていることが求められていると思います。仕事関連メールが来たらすぐに返信する。演奏会の依頼は喜んでお引き受けする。プログラムの相談には積極的に参加する。自分の新しいアイディアやプロジェクトを持つ。そして、「一緒に演奏旅行をしたら楽しかった」と思ってもらうことも大切です。一緒に飛行機に乗ったらやりにくい人だったとなると、敬遠されることもあるでしょう。

 私は、英国の音楽事務所から「リサイタル1回に、約100人のピアニストから売り込みがある。これは、高級チョコレートを選ぶようなもので、箱をあけて"今日は何にしようかな"と見渡し、これにしよう、と決める・・・そんなものですよ」と言われ続けてきました。売り込んだ演奏会の選にもれても、負けずに前を向く、その強さも必要です。

 また、外国には「付き人」制度はありませんので、自分で重い荷物を持ち、飛行機を選び、列車を乗り継ぎ、目的地までたどり着く、冒険心と独立心も必要です。また、海外の音楽事務所と音楽家の関係は緊張状態の高いものであり、あたたかく面倒をみてくれる日本の音楽事務所と音楽家の関係とは肌合いが全く違いますので、そのあたりの理解も必要です。

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ー記者会見で「蜜蜂と遠雷」のお話と重ねて、コンクールで築いたつながりが続く経験についてお話しくださいました。参加した全コンペティターには、このコンクールでの経験をどのように今後に生かしてほしいでしょうか。

 大きな国際コンクールを経験するような子たちは、将来も必ず何らかの形でピアノに携わっていく人材です。

 私が受けたリーズ国際ピアノコンクールから30年も経ちましたが、最近も、当時の出場者たちと仕事場で再会する場面があります。運命を左右する濃密な数週間をともにした人たちと再会すると、言葉にできないほどの感動を覚えます。その意味で、私は読者の一人として「蜜蜂と遠雷」に深く共感しました。そう、コンクールでは、華やかな舞台と、その裏でさわやかな青春物語が進行しているのです。私は、すがすがしい表情の入賞者を見て、第10回浜松コンクール出場者のみなさんに、私が味わったような感動を将来経験してほしいという思いが強くなり、記者会見での発言につながりました。

 ご来場くださったみなさまも、舞台でのピアニストたちの最先端の技術と音楽性を体験され、しかし舞台を降りるとリュックサックを背負って街を闊歩する彼らの様子をご覧になって、いろいろな思いをお持ちになったと思います。

 今回は、入賞しなかった人も浜松に残って多くのコンサートを弾き、コンクール会場外で多くのファンを獲得したと聞いています。音楽業界では、誰がどこで聴いているかわかりません。例えば私の経験から言うと、小さな村の会場で弾いていたら、某音楽祭事務局長が休暇中にふらりと来場していた、なんてこともあるのです。

 浜松での経験と、知り合いになった友人を活かして、音楽活動につなげてもらいたいと思います。「HAMAMATSUに行くと、入賞しなくても良いことがあるよ」と、出場経験者が口コミで話してくれたら、私はそれが一番うれしいかもしれません。



(文・高坂はる香)

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