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2018.12.24 Official Report

【公式】 第1位 ジャン・チャクムルさん インタビュー

「作品にアプローチするときに大切なのは、その音楽に確かな愛情を感じているかどうかです」




一優勝という結果発表から一夜明けて、今の気分は?

 まず、結果にはすごく驚きましたね。こういうことに心の準備ができている人は誰もいないと思いますが・・・まさに突然の出来事です。

 昨夜は疲れていてどう眠りについたのか覚えていませんが、朝、目覚めて最初に感じたのは「こわい」という気持ちでした。今何が起きているのか、これから何が起きるのか全然わからない。スケジュールがすでに組まれていて、多くのコンサートがあり、同時に引き続き学校に通って勉強しなくてはいけない。僕はまだ道の始まりの地点にいるのに、こんなことになってこわいのです。

 でも、今は少し気分が落ち着いてきました。改めてこの先のコンサートのスケジュールを受けとり、先ほど審査委員長の小川さんともお話ができたので。



一すばらしい好機であると同時に、大変なことだと実感しているのですね。

 はい、僕だけでなく、入賞者全員にとってそうでしょう。インターネットで世界中のみなさんが演奏を聴いてくれました。今後は、浜松で入賞したピアニストだと認識され、扉が開かれます。僕たちはみんな大きな責任を感じねばなりません。これまで以上に学び、練習し続け、より良い音楽家にならなくては。

 コンクールは学びの始まりのプロセスで、コンサートは学びの場です。このあとのコンサートツアーで、自分は果たしてその演奏を届けにステージに出る十分な準備ができているのか、自分自身に繰り返し問いかけることで、学ぶことができると思います。

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一これから演奏活動が忙しくなると思いますが、キャリアを築いていくうえで気をつけようと思っていることは?

 重要なことは、長く活動し続けるということです。賢く演奏活動の配分を考えて、単にこの6ヶ月や1年、2年ではなく、長く活動を続けられるようにしなくてはいけません。また、自分の健康と精神のために、作品を勉強し続ける必要もあります。

 フレッシュな心を持ち続けることも大切です。必要に迫られて舞台に立ち続け、「明日もコンサートがあるな、ところでそのあとの夕飯はどうしよう」・・・なんてことを考えるようにはなりたくありません。音楽を創ることが、常に新鮮で、楽しいことでありつづけるようでなくてはと思います。

 そして、この後も学び、発見し続けたいと思います。コンクールで優勝したからって、一夜で別の人間になれるわけではありませんから。



一このコンクールを通して、自分の新しい一面を発見したところは?

 もちろん、たくさんのことを発見しました。今回コンクールに参加してワイマールに帰る前に必ず果たそうと思っていたのは、練習を重ねるなかで、自分自身のいろいろな面を探求することでした。優勝は、多くの要素が重なってこうして実現したにすぎません。もちろん光栄ですが、コンクールとは何があるか分からないものですから。

 ストレスの多い環境のもと、1ヶ月で4回もステージに立つ経験ができました。ピアニストとしてキャリアを重ねれば、今後も多かれ少なかれこういう経験があります。自分自身に、演奏家としての生活がこうして始まったということなのだと言い聞かせています。

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一チャクムルさんの音楽は、自由で生きているという感じがします。このようなピアニストになるなんて、子供時代に一体どのような音楽教育を受けたのでしょう?

 それはありがとう! 多分それに影響しているのは、音楽大学に入る以前、一般的な音楽教育機関でのピアノ教育は受けていなかったことでしょうね。良い音楽学校がありませんでしたから、レッスンは個人的に受けていました。音楽教育が学校と離れたものだったことが、僕にとって子供の頃から一度も音楽が重荷にならなかった理由だと思います。

 僕は、新しい曲にアプローチするときでも、古いレパートリーを弾くときでも、その音楽に確かな愛情を感じているかどうかが大切だと思っています。今がそのときだと思う瞬間に演奏するのです。

 

一それでこういう感じに。先生も特別な方だったのでしょうか。

 そういう意味では、僕は音楽以外の面でもすばらしい学校と先生のもと学びました。これを教えなくてはいけないから教えて、さあ卒業しなさいということはなく、先生方がみんな、どうしたらこの子供たちに人生とはなにかを教えることができるか、何ができるかを常に考えているような学校でした。一人一人にオリジナリティがありました。

 音楽面でも、私が子供の頃に師事したのはそんなタイプの先生でした。なかでも、今もプライベートで師事しているディアナ・アンダーソン先生は、ピアノだけでなくすべてのことを気にかけてくれました。教育は、嫌々受けるべきものではなく、楽しみにされ、人が幸せになるためにあるべきものです。僕は子供の頃からすばらしいレッスンを受けることができてラッキーでした。



一ご家族に音楽家は?

 いません。でも、両親はとても音楽が好きです。



一それでは、ピアノを始めたのはご両親の影響ですか?

 ・・・というよりは、一緒に音楽を勉強していったような感じです。僕が生まれた頃、両親はクラシック音楽に興味を持ち始めて、僕が2、3歳になると、ベートーヴェンの交響曲を聴きに一緒にコンサートに連れて出かけるようになりました。そうして音楽を聴き続けているうちに、音楽に関心を持ちました。

 最初はギターを習おうとしたのですが、5歳だったから弦を押さえることができず、たまたまそこにあったピアノを弾いたことがきっかで、しばらくこれで様子をみようと。ちょっとしたきっかけで始めたのですが、そこからどんどん好きになっていったのです。

 子供の頃は、バッハのアンナ・マグダレーナのための曲やシューベルトの作品を簡単にしたものを弾いていました。あと、家族でいろいろな演奏家の録音を聴いて、解釈を比べる時間は本当に楽しかったです。そうやってみんなでクラシックに興味をもって生活しているうちに、これを自分の愛を捧げるものにしようと思いました。

 両親は音楽好きですから、今回はこのコンクールにとても興味をもっていましたよ。毎朝、トルコの現地時間の朝4時に起きて全ピアニストの演奏を聴いていたんですって。単に、音楽がとても好きだからという理由で!


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一ところで今回、チャクムルさんはカワイのピアノを選びました。どんなところが気に入りましたか?

 プログラムを考えて僕が最も大切にしたのは、音の透明感です。今回のカワイのピアノは、全音域にわたって音がクリアで、バランスもよく、ロングトーンを鳴らすことができました。これは、シューベルトのソナタを弾く上で欠かせないことでした。

 また、コンクールのようにその楽器で練習ができない場面では、弾きやすさも大切です。鍵盤やアクションのつくりのおかげか、とても弾き心地がよかったです。メカニックの意味で緊張やストレスを感じることはなく、純粋にピアノが生み出す音に集中できました。


 

一これまでにもカワイのピアノを弾いて慣れていましたか?

 シゲルカワイを弾いたことは、あまりありませんでした。もともとカワイのコンサートグランドを弾いたことは何度もあって、鍵盤の感触などいつも気に入っていました。でもやっぱり、シゲルはまた別の音がしますね。驚くべきすばらしい出会いでした。

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一今は、ドイツのワイマールで勉強されています。チャクムルさんが演奏した、リストやシューベルトの音楽文化と関わりのある土地だと思いますが、ワイマールで学ぶ中でどんなことを得ましたか?

 それはうれしい質問です。僕がもともとワイマールで勉強することにしたのは、グリゴリー・グルツマン先生が教えているからという理由でした。でも今ではホームと呼ぶほどワイマールが大好きです。その理由はまず、土地が好きだということ。街のいたるところにリストが住んでいた頃の雰囲気が残っています。リストがピアノソナタを書いたのもワイマールです。そういったことを実感し、あの時代とつながれることが嬉しいのです。ワイマールは小さな古い街で、人々の暮らしの雰囲気も違います。150年前から変わらないようなところがあります。

 ちなみに僕がファイナルで弾いたリストのピアノ協奏曲は、ワイマールでリストによって初演されているんですよ! とてもキュートでおもしろい偶然ですよね。


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一ご自身の音楽を最もインスパイアするものは何でしょうか?

 どんな作品を演奏しているときかによります。例えば大好きなシューベルトなら、彼の特に晩年の音楽は、哲学的な作品よりも、当時の生活文化に深く関わりがあると思うので、19世紀のウィーンの生活に思いを巡らせます。仲間たちが彼を囲むシューベルティアーデでどんな会話があったのか、彼らが何を感じていたのかを想像することこそが、最大のインスピレーションの源です。現代でいうポップカルチャーのように、その時代に特別な意味を持っていた文化のことを考えます。

 一方、例えばモーツァルトの作品は、どちらかというと社会との関係性に影響を受けていると思います。とくに晩年の作品はそうです。社会をいかに批評するか、社会を愛するのか嫌うのか、そこにいかに悲劇性を見出すかということです。モーツァルトは創造性あふれる天才でした。彼は常に社会との繋がりを自覚し、その中で、これは自分の望んでいた人生ではないと思っていたはずです。そのことが作品に現れています。突然、悲しみ、怒り、深いメランコリーに陥る。ときに、とても混乱させられます。

 それから例えばベートーヴェンは、また別のタイプです。彼をインスパイアしたのは、困難でした。演奏するにも作曲するにも、この方が楽だというやり方があるのに、あえて壁があるところを進もうとする。ドアが開いていてこっちにくればいいと言われても、そこには行かない人でした。意図的に困難に向き合ったのです。


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一あらゆる作曲家への共感があって、さまざまな経験を想像することが、音楽の源になっているんですね。

 そうあろうとしています。一番大切なこと、なくてはならないものは、イマジネーションです。いずれにしても、作曲家はみんな天才ですから、私たちには、好きだ嫌いだという権利はありません。もちろん、より強く繋がりを感じるかどうかというのは、あると思いますが。



(文・高坂はる香)

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