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2018.12.06 Official Report

【公式】ロナン・オホラ副審査委員長 インタビュー

「評価されない中で仕事をしなくてはいけないときもある。そんな時に大切になるのが、
音楽への深い愛情です」

 

ー浜松コンクールの印象は、いかがですか?

 すばらしい印象です。私はいろいろなコンクールの審査員を務めてきましたが、1次の初日からこれほど質の高い聴衆が客席を埋めているコンクールは、他に見たことがありません。みなさん、静かに、喜びをもって音楽を聴いていました。演奏家にとって、そういう聴衆はもっとも大切な存在です。今や世界の中で「ハママツ」といったら、最初に思い出されるものの一つはこのコンクールでしょう。

 また、良い結果を残せた方々はもちろん、そうでない方にとっても意味のあるコンクールだったと感じます。通過できなかった人に対しても目が向けられていることは、浜松コンクールの大きな意義であり、重要なアイデンティティだと思いました。

 コンクールは、単に優勝者を見出すための場所ではありません。若者が演奏を聴いてもらい、経験を積むプラットフォームであるべきです。フィードバックセッションにも意義がありました。1次から先に進めなかったピアニストは気の毒でしたが、レパートリーをしっかり準備したこと、人との出会いは有益だったはずです。ここでできた仲間が、この先50年付き合う友人になるかもしれません。お互いに学び、インスパイアし合うことは重要です。

 

ーコンペティターのレベルをどうお感じになりましたか?

 とても良かったと思います。すばらしい才能の持ち主がたくさんいましたので、審査は難しかったです。

 幅広い審査委員がいるので、異なる意見もあり、同じ演奏に対して違うリアクションが出る場合もあったと思います。我々は誰かの表現の良さを計るという姿勢ではなく、経験とともに、音楽に正直にリアクションしながら審査に臨んだといえます。ですから誰が優勝したとしても、それは私たち審査委員の考えが、いろいろな状況を経て一般化されて出されたものです。全員が同じ考えでいるはずはありません。それは音楽の世界ではありえませんし、人間の摂理からすれば不自然です。

 今回、私たちは話し合いをしませんでした。他のケースでは、周りの審査委員に話をすることを好む人もいますが、意見を強くいう人がいたりそうでない人がいたりするようではいけません。大きな指針の了解はあるべきですが、審査結果を話し合わないのは良いことだと私は思います。結果を見る瞬間は、いわば、なにが中立の意見だったのかを最終確認するときといっていいでしょう。

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ー審査する中で、オホラ先生が次のステージに進んでほしいと思うのはどういうピアニストでしたか?

 大事なのは、音楽で何か語るべきことがあるということです。予備審査をパスしてきたような人はみんな上手く弾くことができます。そこで重要になるのは、音楽で言いたいことがあるのか、そしてその内容がおもしろいかどうかです。長年演奏活動を続け、ずっと聴く人の興味を引き続けるには、言いたいことがそこになくてはいけません。どんなストーリーを語りたいのかを明確にすることが、最も大切です。

 そこにコンクールで重要なことを付け加えるなら、プログラムの選択です。膨大なレパートリーの中から、最良の選択をできるセンスがなくてはいけません。いわば、あなたの魅力的な側面をカメラに写す能力のようなものです。

 自由なプログラムだけに、できることを見せるいいチャンスだったわけですが、その判断がうまくいっていない場合は、できないことを露呈することになります。審査委員は、選曲だけを見て判断を下すことはもちろんありません。でも、プログラムから、その人の想像力の質や、自覚の有無を感じることはあります。プログラムは食事のようなもので、コースに二つメインを置くことはできません。同時に、ちゃんとクライマックスも用意されるべきです。

 コンクールでは、こうしたさまざまな視点から能力が見られるといっていいでしょう。適切なプログラムを組んで活動する能力は、プロのピアニストにとって重要なことです。

ーそもそも、やりたいことや音楽的なアイデアがなければ、良いプログラムを組むことはできないでしょうね。結果的に、ずっと主催者から提案されるままのプログラムを弾き続けるピアニストになったりとか。

 その通りです。自分を見極められていないがために、ちゃんとしたキャリアを築けないピアニストもいます。どんなジャンルの音楽も完璧に演奏できるピアニストなんて、この世にはいません。ピアノの膨大なレパートリーを弾き尽くそうと思えば、人生が10回必要です。だからこそ、客観的な視点、ときには自分を批判する精神を持つべきです。これは、自分はダメだと思えということではありません。でもだからといって、何をやってもすばらしいと思うのがいいということでもありません。自分には断然こちらの方が向いている、自らを表現することができるという事実を、正しく判断することです。

 アイデアがない、何が向いていて、向いていないかわからないということは、あなたに何かが決定的に欠けているということです。

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ーコンクールに優勝してもキャリアは約束されない時代ですが、若いピアニストはどんなことを心がければよいでしょうか。

 みんなが昔のほうが良かったと言いますが、実際には、キャリアを築くのはいつでも大変だったと思いますよ(笑)、時代ごとにその理由は違うと思いますが。

 いずれにしても、コンクールは魔法の扉ではない。優勝したらすべての問題が解決するはずもありません。コンクールは、若いピアニストが経験を積み、音楽界で露出するために、必要不可欠なプラットフォームです。旅の始まりであり、終わりではありません。コンクールで何位になったかだけを気にする人もいるかもしれませんが、これはオリンピックの試合ではなく、順位や優劣を決めることが目的ではありません。コンクールは、審査委員みんなで出した決断によりピアニストの真価を認め、彼らの将来がうまくいくように願う場所です。

 若い人が、コンクールから家に持ち帰るべきことは何かというのは重要な問いです。キャリアを築くためには、誰かと比べるのではなく、自分自身を知り、見極める感覚を磨く必要があります。

 成功している演奏家は、みんな自分を持っています。言われるがままに、人気ピアノ曲トップ10を演奏していればいいと思っていては、本物のピアニストとしてのキャリアは築けません。今回のコンクールの課題にあったように、現代作品も演奏できなくてはいけませんし、室内楽も上手くなくてはいけません。一流の演奏家はみんな室内楽が上手です。公のコンサートでは演奏していなくても、どこかで弾いていたりしますからね。

 もうひとつ、キャリアを築くために必要なのは、プロフェッショナルでなくてはならないということ。演奏活動は、アートであると同時に、プロの仕事です。共演者、指揮者、マネージャー、プロモーターとうまく関わる能力も必要ですし、また彼らから信用される存在でなくてはいけません。才能があっても、プロフェッショナルとして信用されないがゆえにキャリアを築けない人もいます。

 ただそれは、いつも完璧でなくてはいけない、絶対に失敗をしてはいけないという意味ではありません。人間ですから、いろいろあるのは仕方ありません。ただそこに、ブレない一貫性がなくてはいけないと思います。

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絶対に失敗をしてはいけないと思い過ぎれば、クリエイティブな飛躍は期待できません。ただ、優れた演奏家には、安定した強さがあります。シフやペライアなど、すばらしいピアニストはみんなプロフェッショナルですよ。時間通りにちゃんとやってきます(笑)。若い人はあまりわかっていないかもしれませんが、アーティストであるということとプロフェッショナルであるということの間に、矛盾はありません。いい演奏家になるためには、創造性とイマジネーション、プロフェッショナリズム、そして忍耐強さが必要です。音楽家の人生は長いですから。

 音楽院を卒業する頃の年代は、一番大変な時期かもしれません。学校では高い評価を受けていた人でも、急に現実社会に放り出されてしまう。そんな状況の中では、自分が音楽への深い愛情を持っているのか、日々確認しながら進まなくてはなりません。それは、拍手を受けることへの愛情でも、才能があると賞賛されることへの愛情でもありません。20歳くらいの時はその種類の愛情でやっていけるかもしれませんが、50歳になってから、それで続けていくことはできません。

 あとは先を見通す力も必要です。あるコンクールでは優勝できて、他ではうまくいかない時があるかもしれない。でも、あなたの才能が確かなものであれば、いつかどこかで必ず認められる日はきます。音楽業界はいつも混雑していますが、満席ではありません。才能と情熱があり、責任感があり、想像力の豊かな音楽家のためのスペースは、常に空いています。

 賞賛されたい、注目されたいというモチベーションが悪いとはいいませんが、もっとそれ以上のものがないと。20世紀の偉大なピアニスト、エミール・ギレリスはこう言いました。人生にはたくさんの土曜日の夜があります、でも同じだけ月曜日の朝があると。キャリアを重ねる中で、賞賛をうける楽しい時間を満喫することもいいですが、それがなくても大丈夫な自分でなくてはいけません。誰からも評価されない中で仕事をしなくてはいけないときもあります。そんな時に大切になるのが、音楽への深い愛情です。それがあれば、音楽と共にあるすばらしい人生が待っているでしょう。


(文・高坂はる香)

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