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池辺晋一郎氏インタビュー&日本人作曲作品講座

2012年11月19日|スタッフレポート

 予選の演奏がない最初の空き日となった18日、第2次予選課題曲の日本人作曲家委嘱作品についての講座が行われました。

 池辺氏は「解釈を演奏者に委ねるために、楽譜には最低限の指示しか書きませんでした。そもそも作曲家は、こうしてほしいということは楽譜に10分の1しか書くことができません。残りの10分の9は読み取ってもらうしかないのです」と言います。

作品の解説とともに、惜しくも3次予選に進むことのなかったコンテスタントのうち、片田愛理さん、アレクセイ・タルタコフスキーさん、シエ・ジンチュエンさんによる演奏がありました。とくに片田愛理さんの演奏については、「ここで個性が出るはずだというところで、それがちゃんと現れてくる演奏だった」と池辺氏。ピアニスト達は、コンクール中よりは少しリラックスした表情で、三者三様の音楽を聴かせてくれました。
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「ピアノの音というのは、水のように高いところから低いところへ落ちていくもの。それを止めることが作曲家のひとつの仕事です。そのため、今回の“青い梢を見上げる”というように、上に昇ってゆくイメージを持つ音楽というのは難しい。エナジーをためてぐっと上へ上がって行く、そして上がったところでまたエナジーを充分ためることで、ようやく歌うことができるのです。
 最初が、上昇する梢のモチーフ、そして次が、横に進んでゆく歌のリリシズムのモチーフ。これらが発展しながら交互に登場します。最後にはこれが同時に進行するのですが、そこをどのようにコントラストを保ちながら表現するかがポイントです」

 また、フレーズの間に存在するあるひとつの音について、それが「前のフレーズに属すのか、それとも後ろのフレーズに属しアウフタクトとして存在するのか」が問われるシーンも(こちらの、1ページ目最後のソ♯の音について)。ここは、「わざと弾く側が迷うように書いた」と池辺氏。

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「正解はありません。どちらにとっても、音楽が生きたものになるように弾いてくれたらよいのです。ただ、この音が“なんだかわかんない”という吹き出しでもついているように、どっちだかわからないまま弾いているような演奏も聴かれましたが、それは困ります」

 最後に池辺氏は、ご自身のおしゃべりが今日は思ったよりジョークが少なかった……! と言いつつも、こんな言葉で講座を締めくくりました。

「音楽学者のハンスリックは、音楽は音の芸術であって何ものも描写しないと言いました。一方チャイコフスキーは、全ての音楽は標題音楽であると言いました。両方の立場があると思いますが、日本人という民族はこれまで、音楽は何かと必ず結びつけて考えてきました。歌、語り、踊り、そして、草木などです。この作品は現代音楽ですし、モダンピアノのために作られた作品ですが、その根底には、日本人が考え、聴いてきた音楽の感性と深く結びつくものがあったと思います。そのことをお伝えして、今日の講座を終了したいと思います。」


◇「豊かな“10分の9”を持つ演奏家に」 インタビュー


─今日はお話をうかがって、また理解が深まり作品をよりおもしろく感じました。とはいえ、音楽は、説明なくとも音楽から感じてほしいというのが作曲家の方の本音かとも思いますが……。

 そうですね、僕は黒澤明監督の映画の音楽を4作品手掛けていますが、以前一緒に取材を受けていたときにニューヨークタイムスの記者がやってきて、インタビューの最後に「監督がこの映画でおっしゃりたかったことは何ですか」と聞いたんです。そうしたら、黒澤監督は「言いたいことがあるから映画を撮るんだ! もう帰ってくれ!」と言ってインタビューが終わったことがありました。僕も楽譜を持ってきて「これで何が言いたいんですか?」なんて聞かれたら、黒澤流につっぱねてしまってもいいんですが(笑)。でも映画と違って音楽だから言葉で説明する余地がありますしね。

─理解しようとすることを放棄していきなり質問するのは良くないということでしょうか……。ところで2日間で14人の演奏をお聴きになったそうですが、どのようにお感じになりましたか?

  楽譜に書かれている10分の1のことにはしっかりと沿って弾いてほしいし、それに加えて、フレーズや音の書き方から、書かれていない10分の9の部分をく み取って弾いてほしい。そしていくら解釈を委ねているといっても、例えば、力強くなっていくように書かれているところでディミヌエンドする演奏などもあっ て、それはちょっとなぁ、と思いましたね。コンクールに向けての作品ですので、普段なら10分の9まで書かないところが、ちょっとその分量を増やして “10分の9.5”まで書かずに、フレキシビリティを多く残しました。
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─作曲家として、良いピアニストだと感じるのはどんな人ですか?

  その、10分の9の部分が豊かな人、ファンタジーと自分の世界を持っていて、自分ならこう描きたいというビジョンがはっきりしている人ですね。ストラヴィ ンスキーのように、自分の作品は教会の鐘を打つように弾いてほしい……つまり、余計な解釈をせずに紐を引けば音が鳴るようにそのまま演奏してほしいという 作曲家もいますが、僕は行間を読み取り、ファンタジーを持って演奏してほしいという考えです。とはいえ、誰が読んでもそうなるという10分の1はフォロー してほしいですが。

─コンクールでは、この先ずっと音楽を突き詰めていこうとする若いピアニスト達が演奏しています。一方、東日本大震災もあり、今後音楽の力が人に大きな役割を果たす場面も多々あるのではないかと思います。音楽が社会に対して持つ役割について、どのようにお考えですか?
  僕自身、先週、東日本大震災によせてのチャリティCDの録音を行ったばかりですし、しばしば反戦、平和のための演奏旅行もしています。それでは、音楽にど れだけの力があるか。たとえば「開けゴマ!」と呪文を唱えると大きな石の扉が開くように、「戦争をやめよう」「復興しよう」と歌っただけで、それが実現す るはずはない。そんな力は音楽にはありません。ただ、たとえば扉を開けるときに、重い扉の前で、大勢で力を合わせ肩を組もうというときに役立つのが音楽で す。人々の気持ちをひとつにし、同じ方に向かわせるときこそ、音楽が意味を持つ。そういう不思議な力が音楽には宿っていると思います。


高坂はる香

 

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