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【公式レビュー】第1次予選 4日目前半

2012年11月14日|スタッフレポート

第一次予選も4日目、終盤に差し掛かった。次々と素晴らしい演奏者が現れるので、自分の中の暫定一位がすぐに入れ替わってしまう。それだけ、甲乙つけがたい演奏だということだ。明日、第2次予選に進む24名が決まるわけだが、その結果はきっと悲喜こもごもになるだろう。全身全霊で立ち向かってくるコンテスタントの演奏を心して受け止めたい。

  前半最初のリ・クラレンスさん(シンガポール/22歳)の演奏は、まずバッハの平均律 第2巻ニ短調から。力強い音を第1音から響かせた。会場内が一瞬で引き締まる。ベートーヴェンのソナタ 第4番 変ホ長調は、格調高いソナタに仕上げようとする意図がこちらにも伝わってきた。ワーグナー/リストのイゾルテの愛の死は、ワーグナーの歌劇『トリスタンとイゾルテ』から。イゾルテが息絶える前の最後を盛り上げなければならない。華やかな音の連続、ここはテクニックの見せ所、聴かせどころだが、よく踏ん張れたと思う。最後の1音が、死を意味するように消え入るように途絶えた。 

  ラビガ・チュッセムバエワさん(カザフスタン/25歳)は、ハンサム・ウーマンだ。バッハのエネルギッシュな演奏。夢中でバッハを弾く姿に心打たれるものがある。ベートーヴェンのソナタ 第4番は、ややもすれば崩れやすいテンポをうまく保って弾けていた。ここでもダイナミックな音が会場狭しと響き渡った。大きな音を出し過ぎて演奏が雑になることを心配したが、その心配は無用だったようだ。チュッセムバエワさんの創り出すショパンの世界観に浸らせてもらった。演奏を終わらせ舞台から退くときに、髪をなびかせ、風を切るように戻って行ったのが印象に残っている。
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  渡辺友理さん(日本/24歳)は、海を思わせる深い緑のグラデーションのドレスで登場。大半のコンテスタントが最初にバッハを持ってくる中で、ベートーヴェンを持ってきた。その思いの強さがうかがえる。最初の和音連打でテンポが決まってしまうワルトシュタイン、それをずっとキープしなくてはならないところがこの曲の難しいところだが、堂々と演奏してくれた。その後バッハ、ショパンと続いたが、最後に弾いたショパンでも充分体力を残しており、強弱あざやかな表情のあるスケルツォ 第3番だった。
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  ユ・スルギさん(韓国/22歳)は、胸元のスワロフスキーが輝く真っ赤なドレスで華やかに登場、バッハの平均律 第1巻 嬰ハ長調は、メロディが埋没せず、高らかに歌い上げていた。余韻を大事にしようと、弾き終えた手をしばし空に留めていた姿が印象に残る。ベートーヴェンのソナタ 第27番もそつなくこなし、サン=サーンス/リストの死の舞踏では、右手の高音部分が優雅に冴えわたって、左手は力強く、両手が上手く調和しており、ダイナミックな演奏に仕立てられていた。テクニックのすべてを出し切ったという達成感を味わえたのではないだろうか。

  ジェラルド・アイモンチェさん(ロシア/21歳)のバッハは、弱めの音でスタート、その分フォルテまでの振り幅が大きく、濁りのない音が心地よかった。ベートーヴェンに合う音などという表現はあいまいかもしれないが、ソナタ 第3番 ハ長調をこんなに美しく聴けたのは嬉しい。そして、いとも簡単にリストのハンガリー狂詩曲 第6番を弾くので、会場内があっけにとられている。フィナーレに向かってこれでもかとテクニックを見せつけたが、まだまだこんなものではないという余裕が感じられる。ピアニッシモがきれいに出せるので、フォルテも強く弾く必要がない。モスクワ音楽院の学生の演奏スタイルを見ることが出来た。

  キム・ジュンさん(韓国/29歳)のバッハは、平均律 第2巻 嬰へ短調だったが、響き渡るバッハの音色の整然とした音に、思わず姿勢を正して聴き入った。ハイドンのソナタ 変ロ長調では、かわいらしい音が次から次へと生まれて、バッハで出来上がっていた静寂なムードが和んだ。ブラームスのパガニーニの主題による変奏曲は、どのバリエーションも難しいものばかり。超絶技巧と言われる華麗なテクニックをいかんなく披露して、歯切れのいい演奏に徹していた。

  スタニスラフ・フリステンコさん(ロシア/28歳)は、大きな身体を小さく曲げてかがむようにして演奏が始まる。いきなりバッハ 平均律 第1巻 ハ短調の速いパッセージを一気に演奏した。演奏中の集中力が半端ではない。ベートーヴェンのソナタ 第6番は格調高く、その中にも遊び心があって、流れるような旋律をテンポよく弾いてくれた。一方、リストのスペイン狂詩曲は、フリステンコさんのピアノへの情熱が伝わってくる演奏だった。練習で培ったテクニックと情熱が上手く合わさった珠玉の演奏だった。

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  實川 風さん(日本/22歳)の演奏を初めて聴いたのは、彼がまだ中学生の時に出場した「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」でのこと。成長してからの演奏を聴くのは感慨深い。バッハの平均律 第1巻 ロ長調は丹精した一つ一つの音が印象に残った。次はこの日2回目のワルトシュタイン、強弱の付いた軽快な滑り出し。リズムを保ちながらの切ないメロディをうまく歌い上げた。ときどきうなずきながらの演奏は、本人も納得して弾いているということだろう。ショパンのスケルツォ 第3番は弾きなれた持ち曲という印象を受けた。自信を持って弾いていて、こちらも安心して聴けた。



◇演奏を終えて……

ユ・スルギさん

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―演奏を終えての感想をお聞かせください。

 緊張しました。100%は出せていない、70%くらいかなと思います。それからミスタッチが多くて気になったのですが(笑)、演奏に集中して、ネガティブにならないようにと心掛けました。

―とてもいい演奏だったと思いますよ。

 皆さんが集中して聴いてくれているのがわかって、とてもハッピーな気持ちになりました。そのおかげで、私も集中できました。素晴らしい聴衆です!

―サン=サーンス/リストを演奏されましたね。

 サン=サーンスが大好きなのです。サン=サーンスの曲は、メロディがわかりやすく、人を笑顔にさせてくれる。クライマックスもクリアで、そういうところが気に入っています。リスト編曲を選んだのは、ホロヴィッツの編曲よりこちらの方が好きなんです。



ジェラルド・アイモンチェさん

―今日の演奏はいかがでした?

 細かいところで気になるところもありますが、ほぼ満足しています。

―今回のレパトワはどのように決めたのですか?

 何曲かをリストアップして、どの曲にするかをドレンスキー先生と打ち合わせして決めました。第2次予選で弾くことにしているショパンは新しい試みです。同じところに留まらないで次へ行くことが大事だと考えて、挑戦することにしました。

―ショパンを3曲弾くことになっていますが、新しい挑戦というのは、3曲全部ですか?

 エチュードとスケルツォです。

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―ピアニッシモがきれいに弾けていて、とてもよかったと思います。

 実は、ピアノのおかげでもあるのです。ピアノ選びの時、ヤマハを弾いてみて、タッチが自由に感じることが出来たのです。それで、ヤマハを選びました。

―現在はモスクワ音楽院の学生さんですが、将来をどのようにお考えですか?

 ピアニストとしてやっていければいいと思いますが、作曲にも興味があります。
室内楽の作曲をしてみたいと考えています。



*最後に握手をしてお別れをしたのですが、びっくりするほど力のないホワンとした手でした。ピアノを弾いてから時間が経っていたせいでしょうか、冷たかったのも意外でした!

第2次予選で、新しい挑戦だというショパンを聴いてみたくなりました。
 

角田珠実

 

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