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【舞台裏から】 第3次予選の聴きどころ

2012年11月18日|スタッフレポート

 第3次予選には、今回のコンクールから、新たにモーツァルトのピアノ四重奏曲という課題が入ります。それに加えて、各自が自由にソロリサイタル感覚で曲目を選ぶ、合計70分。選曲にもセンスが現れる、とても興味深いステージです。

近年、第3次予選で室内楽を導入するコンクールが増えています。ピアニストはクラシック演奏家の中でもひとりで練習しステージに上がることが多い“孤独な仕事”と言われることもありますが、やはり一流演奏家として息長く活動するピアニストには、他の音楽家とのコミュニケーション能力が求められます。ピアノ協奏曲という最後のワンステージのみでそれを判断するのではなく、より親密なコミュニケーションを要する室内楽で、音楽を創る能力を見ようという狙いがあると思われます。

 また、モーツァルトという、ピアニストの音楽性、技術、表現力がはっきりと示される作曲家が課題になっているのもポイントです。技術的な面で言えば、モーツァルトの作品は明快な音型が連なっていながら急速な部分なども多いので、雑だったりミスが多かったりするととても目立ってしまいます。そのため、ピアニストには高い集中力と技術が求められます。一方、その明快な音符の中に深い感情や歌心がこもっていますから、当然技術面に意識がとらわれていればそれが表現できません。そして、演奏家が本来持つ音色やニュアンスの感性が、シンプルな音符に乗せてそのまま現れますから、音楽性・表現力の面でも優れたものが求められます。楽譜にあることから逸脱しない範囲でいかに豊かな音楽を創るかが課題となるでしょう。

 生涯で700以上もの作品を遺したモーツァルトですが、ピアノ四重奏曲は、今回課題となっている第1番ト短調と第2番変ホ長調の2曲しか書かれていません。その2曲から、コンテスタントがそれぞれに選んだ作品で自分の音楽性をさらけ出す! 興味深いステージとなるでしょう。

 

 さて、そんな第3次予選のステージ、たまたまお話を聞くことのできた何人かのコンテスタントに、リサイタル前さながらにプログラムの「聴きどころ」について、また例によって余談なアレコレについて伺いました。ぜひ、3次予選をより楽しむためのご参考に。



 

◇内匠 慧さん(19日 13:55~15:05)

W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493
G. ヘンデル:シャコンヌ ト長調 HWV.435
A. ババジャニャン:6つの描写
F. ショパン:幻想曲 へ短調 Op.49
F. ショパン:即興曲 第3番 変ト長調 Op.51
A. バラキレフ:イスラメイ

 

─課題曲の室内楽として用意された2つの曲、モーツァルトのピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478と第2番 変ホ長調 K.493のうち、第2番を選ばれましたね。第3次予選進出者12名のなかで、2番を演奏するのは4名、19日に2番を演奏するのは、内匠さんただ一人ですが、これを選ばれた理由は?

 弾く人が少ない方が、聴いてもらえる時にアピール出来るかもしれないと、プラスに考えています。僕は気が沈みがちな傾向にあるので、音楽でバランスを取ろうと(笑)、全部長調の2番を選びました。こういう性格の人間が明るい曲を弾くといいのかなと……。

─内匠さんが聴きに来てくださる人にこの第2番を紹介するとしたら、どんな曲だと説明しましょうか?

第2番は、モーツァルトらしい曲です。古典なのですが、形式ばっていない。ですから、ここが第1テーマ、第2テーマとわかりにくいのです。仕切りがなくて、音楽が横に流れていく感じなのです。テンポ自体はゆっくりです。

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─リハーサルはいかがでした?

 リハーサルの演奏はひどかったです(笑)。こっちが主導権を握らなくてはいけないのに、一緒に演奏してくれる人たちに何かありますかって、逆に聞いてしまいました(笑)。

―演奏順はプログラムに書かれてある通りですか?

はい、そうです。最後に弾くバラキレフの「イスラメイ」は、以前ちょっと速めに弾いていたので、正しいテンポに戻して、この難曲を華麗に弾くつもりです。“テクニックに難あり“というイメージがつかないように、頑張ります(笑)」



 

◇アシュレイ・フリップさん(19日 15:20~16:30)

W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
J. S. バッハ:フランス組曲 第5番 ト長調 BWV.816
B. バルトーク: 組曲 Op.14
F. リスト:死の舞踏


─3次予選に向けて、どんな気持ちですか??

 室内楽をとても楽しみにしています。また、リサイタルプログラムとして自由に 曲が選べるのがとてもすばらしいことだと思います。普通の演奏会では、いろいろな時代や作曲家から短いものを1曲ずつ、なんていう弾き方はしませんよね。 それが、まるで本当の演奏会のように大きな作品を選んで演奏できるので嬉しいです。
 

─プログラムについては全体にどのように構成しましたか?

バッハからロマン派、そして20世紀の作品と、多様性のある音楽を選ぶことができたので、気に入っています。まず、バッハのフランス組曲とバルトークの組曲で、ふたつのまったく異なる時代の対比を示します。そしてリストの「死の舞踏」。リストのこうした作品は、しばしば超絶技巧を示すための作品として認識されることも多いと思いますが、僕はもっと真剣な作品として捉えています。リストは死についていつも深く考えていた人です。この作品は、彼の宗教的な思想を描出したひとつの作品だと思っています。

「死の舞踏」はもともとピアノとオーケストラのために書かれた作品で、続くバルトークは、何よりオーケストラ的な音楽を好んだ作曲家ですから、この2作品にも共通性があります。プログラム全体を通してつながりを持たせてあります。みなさんに楽しんでいただけるとよいです。

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─ピアノはいかがですか?

 僕が選んだカワイのピアノは、きらびやかすぎず、温かい音がして、すごく気に入っています。選ん だポイントはいくつもありますが、やはりプログラムとの相性がもっとも大きな理由でした。大きな音を鳴らしても、パーカッションのようになったりはしな い。このピアノであれば何でも表現できるような気がしています。それと、普段から重めのアクションで子細なコントロールをできるピアノが好きなんです。こ のシゲルカワイがとても気に入って家に持ち帰りたいくらいですが、残念ながら大きくて鞄に入りません(笑)。



 

◇オシプ・ニキフォロフさん(19日 16:45~17:55)

W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
C. ドビュッシー:版画
J. ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 Op.35 第1集
C. サン=サーンス/F. リスト/V. ホロヴィッツ:死の舞踏 

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─プログラムの聴きどころは?

全ての作品を合わせてひとつのまとまりになるようなプログラムにしたいと思いました。モーツァ ルトのすばらしい作品であるト短調のピアノ四重奏曲を演奏できるのが楽しみです。そしてドビュッシーの「版画」では、2次で演奏したラヴェルとはまた違っ たものをみなさんにお聞かせできると思います。それから、ブラームスのパガニーニの主題による変奏曲、そして誰もがメロディを知っているサン=サーンスの 「死の舞踏」を演奏します。ホロヴィッツ・バージョンなので、音楽がより複雑になっていると思います。やはり、この最後の作品が一番のクライマックスにな ると思います。とても悪魔的な作品で、骸骨の踊りと夜明けという物語をみごとに反映しています。うまく言葉では説明はできませんが、とにかく聴いていただ くと情景が目に浮かぶと思います。

─ところで、現在はアメリカに留学中かと思いますが、それまではどちらで勉強されていたのですか?

 ピアニストである父のもと勉強していました。ちなみに、母もピアニストです。僕はシベリア南部のアバカンという小さな街で生まれました。そこで7歳からピアノを始めて、9年間父にピアノを習い、3年前、アメリカに留学したんですよ。



 

◇アンナ・ツィブラエワさん(19日 20:35~21:45)

W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
A. スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第4番 嬰ヘ短調 Op.30 
R. シューマン:交響的練習曲 Op.13
 

─3次のプログラムはどのように選びましたか?

とにかく、全ての作品が私にとってとてもおもしろいものです。スクリャービン とシューマンの音楽は、どちらもとても好きですがすごくかけ離れた作品なので、また対比がおもしろいと思います。すべての魂をピアノに込めて演奏したいで す。きっとそれを、ヤマハのピアノが助けてくれると思います!

─ピアノ選びの時間は10分だったと思ますが、すぐに決められましたか?

はい、本当に美しい音がするすばらしいピアノです。短い時間でも、ピアノのことが全部わかりました。自分の力や指の感じにぴったり、これが私のためのピアノだ!と思いました。

─モーツァルトのピアノ四重奏が課題に入っていることはいかがですか?

すっごくおもしろいと思います。すばらしい演奏家と共演できてうれしいです。

─リハーサルの時間が足りなさそうでしたね。

はい、もう少しリハーサルを続けたかったですね。モーツァルトの音に触れること、アンサンブルで演奏することは簡単ではありませんから。でも、この短い時間でできる限りのことをできたと思います。

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─第1番のほうを選んだ理由は?

とても美しい作品ですから。……もちろん第2番も美しいですけど。他のプログラムの調性から して、ト短調のほうがよく合うかなと思ったんです。これまで授業で室内楽の勉強はしてきましたが、ステージで演奏するのは初めてなので、とても楽しみで す。すばらしい経験になりそう!

─モスクワ音楽院のプログラムで、同じくコンテスタントのマルチノフさんと一緒に週3日プールで泳いでいると伺いましたが(笑)。

はい、スポーツが大好きなんです! 人生の一部と言っていいと思います。成功は、健康なくしてはありえませんからね。ピアノを弾いていると、背中、肩、腕などにいろいろトラブルがつきものですから、音楽家にはスポーツは不可欠だと思います。中でもスイミングは最高ですよ!



 
◇イリヤ・ラシュコフスキーさん(20日 10:00~11:10)

W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
F. リスト:「巡礼の年 第2年 イタリア」より ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲
M. ムソルグスキー:展覧会の絵

 

─3次のステージの聴きどころを教えてください!

僕の演奏曲目から? それとも他の人のから(笑)?

─もちろんラシュコフスキーさんの曲目からですよ! とても魅力的な作品が並んでいますね。

リストとムソルグスキーに、中で も特にこのふたつの作品には共通性を感じます。リストの「ダンテを読んで」は地獄を描いています。まるでスリラーのように、聴いているみなさんを震え上が らせるような演奏をしなくてはいけません。それに対してムソルグスキーの「展覧会の絵」は、天国を描いているわけではありませんが、最後に天国に辿りつき ます。“キエフの大門”、これが僕の中では天国への門なのです。「展覧会の絵」は、もう、本当にすばらしい作品ですよ。(ムソルグスキーは友人の画家の遺 作展で見た絵をもとに作品を仕上げましたが)演奏からは、その作曲のエピソードにまつわる作品を思い浮かべる必要はなく、聴こえる音楽から思い浮かぶ絵 を、それぞれの聴き手が自分のイメージで思い描いてくれたらよいと思います。

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─ムソルグスキーというと、なかなか大変な人生を送った作曲家ですよね。どんな人物だと理解されていますか?

彼はいつも酒におぼれていました。つまりそれは、彼が常に苦しみの中にいたということだと思います。幸せなのは、音楽を書いている時間だけだったのかもしれません。……会ったことがないからわからないけど!

─モーツァルトのピアノ四重奏第1番を演奏するのはいかがですか?

モーツァルトの最高の作品のひとつだと思います。彼がト短調で書く作品は、いつでも特別です。

─それでは、迷わずに第1番を選んだのですか?

…… いや、ちょっと迷いましたけど(笑)。でも1番は大好きです。暗い1楽章を経て最後にやってくる3楽章は、とても快活でユーモアがあります。そこが一番の 盛り上がりでしょう。演奏する側として難しいのは2楽章です。長いので、いかにおもしろいものに仕上げるか。そこが僕の課題だと思っています。



 

◇キム・ジュンさん(20日 11:25~12:35)

S. プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 Op.83
F. リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478
 

─キムさんは、モーツァルトは第1番の方を選んでいますね。

1番の方がより興味があるからです。それと、演奏時間との関係で……。第3次予選は70分です。プロコフィエフとリストのソナタで約50分かかります。モーツァルトの第1番は21分くらいで終わるので、ちょうどいいかなと思っています。

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─モーツァルトの第1番はどんな印象ですか?

素敵な構成でできています。第2楽章はとても美しい音で、第3楽章はそんなに速くなくて、ここはト長調でとてもハッピーになれます。

─あなたの演奏を観客はどのように楽しめばいいでしょうか?

 演奏を聴いていても、細かいことって覚えていないと思うんですよ(笑)。ですから、全体のイメージを与えることが大事だと考えています。小さなミスは大したことじゃない、もちろん小さなミスが続けば、大きなミスになるけどね(笑)。
 

―室内楽の他は、ソナタが2つですね。

大好きな曲です、特にリストのソナタが大好きです!

 




 

◇中桐 望さん(20日 15:05~16:15)

A. スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第3番 嬰へ短調 Op.23
F. シューベルト:楽興の時 D.780 Op.94-2
M. ラヴェル:夜のガスパール
W. A. モーツァルト:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

─課題曲の室内楽は、第1番を選んでいらっしゃいますが、どのように決めたのですか?

 第2番はすごくすてきな曲、大人な感じがします。一方、第1番はパリッとメリハリが出せる。終楽章はさわやかに終わるので、とてもチャーミングです。モーツァルトがその当時かわいがっていた小鳥がいて、その頃作曲したものだと聞いています。それで、第1番を弾きたくなりました。

─中桐さんはどのように第1番を演奏されますか?

私は歌が好きで、歌の伴奏をよくやっています。歌の人と共演する中で、バランス、呼吸を合わせて行くようにやってきたので、その経験を活かして弾けたらいいと思っています。弱音を大切に弾こうと心がけているので、それを聴いて欲しいです。
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─演奏順はプログラムに書かれてある通りですか?

 はい、そうです。カルテットを最後にしたのは、ソロのラヴェルの「夜のガスパール」で終わると、おどろおどろしいので(笑)、その雰囲気でステージを去るより、カルテットでさわやかに終わる方が、お客様にもいいのではないか、第3次予選はリサイタル形式だから、お客様のことも考えたい。そんな気持ちで、ストーリーを考えながら演奏順を決めました。

   角田珠実
高坂はる香

 

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