浜松国際ピアノコンクール/THE HAMAMATSU INTERNATIONAL PIANO COMPETITION


浜コン スピン・オフ

浜松行進曲

浜コンの後、倉敷、沖縄の取材から帰ったころに、ギンタラス・ヤヌセーヴィチュスさん(リトアニア:24才)からメールが届きました。彼の名前は、私たち日本人にはとても発音しにくい苗字、そしてお名前もやや長い、というわけで、既にコンクール期間中から内輪では“ギンちゃん”と呼んでいたのです。

ギンちゃんはいわゆる「コンクールひとり」のお一人で、第1次予選を見事通過されましたが、2次の通過は叶いませんでした。ギンちゃんが本選に進めばチャイコフスキーのピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調を演奏する予定でしたので、本選で一度はチャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴きたいと願っていた私は、ひそかにその思いをギンちゃんに託していたのですが、残念ながら聴くことは出来ませんでした。

1次予選では、リストの半音階的大ギャロップを演奏しましたが、コンクールでこの曲を弾くのは初めてだったようです。「自分としてはポロネーズを弾きたかったんですが、先生の勧めで半音階的大ギャロップを弾くことにしました」ギンちゃんは、演奏が終わったら何も考えないようにしているそうで、「結果がわかって、受かっていればまた(次のことを)考え始めます」

ギンタラス・ヤヌセーヴィチュスさん
2次予選での演奏直後のインタビューでは、演奏直後の気分は?と伺うと、「ハッピーです」と一言だけでしたので、それは演奏に満足しているということですね?と、私が話を広げようとすると、「演奏がどうのこうのというのではなくて、今、この瞬間がハッピーだということです」この反応に、ちょっと気難しい方なのかな、この辺でインタビューも止めとくかと思っていましたが、最後にもう一押しと思って、「演奏はどうでした?」と聞くと、「1次は上手くいったと思う、両親も満足してくれています。今回はどうでしょう。今、自分の国ではまだ朝早いのですが、両親が聴いてくれていると思います。後で電話して感想を聞くつもりです」と、“ほんのりネタ”も披露してくれるではありませんか。ご両親も、母親が作曲家、父親がトランペッターという音楽家で、ギンちゃんが全幅の信頼を寄せている様子がインタビューから伝わってきました。意外と内面は繊細な方で、まだ手が震えているんですよと、手を見せてくれましたが、大曲を弾き終えての震えなのか、神経がまだ高ぶっての震えなのか、かすかに震えている手でした。

ギンタラス・ヤヌセーヴィチュスさん 1次予選通過の後、コメントをいただきに行ったとき、ちょうど同じく1次を通過した『不覚にも…』でも紹介した、サラ・ダネッシュプールさんも居合わせたので、一緒にコメントをいただこうとして、まずサラさんにいろいろと伺おうとしていたのですが、サラさんはなかなか言葉が出てこなかったのです。するとそれを見かねたギンちゃんが、自分のコメントはそっちのけで、他のコンクールで知り合ったというサラさんのことを「彼女は最近ずいぶん上達しましたよ。今度の演奏も聴いて、すごいと思いました」と話してくれたのです。結局そのコメントは公式情報誌には採用されませんでしたが、私の中でギンちゃんのコメントはずっと記憶に残っていました。

そんなギンちゃんは、2次予選を通過できなかった時、少し落ち込んでいたのです。「これからは、ordinary (平凡) でいようかな」なんて、ギンちゃんらしくないことを言ったりもしました。ですから私は、「ダメ、extraordinaryでいてくださいっ!」とお願いしたのです。

そして、この度再び元気になったギンちゃんからメールが届きました。3年後、もう一度浜松に挑戦しようかと考えているようにも感じ取れる嬉しいメールです。私はあふれる才能をギンちゃんに感じています。ですから、

Be extraordinary, ギンちゃん!

角田珠実