我関せず
この話は『わたしと小鳥とすずと』の続編のようなものでして、出来ましたらそちらを読んでからこっちをお読みいただくと、よりお楽しみいただけるかと思います。
演奏中は出来るだけ静かに聴いていただきたいと、私は『わたしと小鳥とすずと』の中で申し上げたわけですが、実は演奏しているピアニストには、私たちの発する音はそんなに聞こえていないということです。
チェン・チャンさんの演奏中、スーパーのビニール袋の擦れる音が何度かしていたわけですが、演奏後のインタビューで、彼にはその音など全く聞こえていないことがわかりました。
それどころか、彼の場合、英雄ポロネーズを弾いている途中、タイムオーバーで演奏をストップするようにとベルが鳴ったのですが、彼は最初に鳴ったベルははっきり認識できていませんでした。「何か起こったのかなとは思いましたが、よくわからなかったので弾き続けたんです」そして二度目に鳴らされたベルの音で、彼はやっと気がつくわけです。「僕は以前ピアノを弾いている時、衝立が倒れて来たことがあるのですが、その時も気づかずに演奏してましたよ(笑)」と驚きの発言!
そうなんです、ピアニストの集中力はすごいんです。いったん弾き始めると何があってもよほどのことがない限り、彼らは弾くことを止めません。これは中国であった国際ピアノコンクールでのことですが、出場者のアダム・ゴルカさんが演奏中に、入ってきた男性が客席の真ん中の階段から転げ落ちたのです。すごい音がしました。2階に陣取っていた審査員の先生方がいっせいに身を乗り出して見たほどです。この時も後でゴルカさんに確認したところ、「へえ、そうなの?全然わからなかったよ」ということでした。
そのほか、菓子パンを食べ始めた親子がいて、外側の袋がザワザワ音を立ててうるさかったということもありましたし、携帯が鳴って、電話に出ていた人もいたんです。整然とした浜松コンクールでは考えられないことです。
なんだ、そんなに音に神経質にならなくてもいいんだと思った人はいませんか?確かにピアニストは、演奏中はあまり気にならないと申し上げましたが、彼らは演奏に入る前に何か音が聞こえると、それには敏感に反応するようなのです。「演奏中は客席の音はあまり気にならないけど、演奏に入る前に何か音がすると集中できない」と、そのコンクールで見事優勝したゴルカさんは言ってます。
ですから、やはりコンサート会場ではなるべく音を出さないようにしていただきたいのです。演奏者のためであることは言うまでもなく、何よりもあなたの周りで真剣に耳を傾けている方のために。
角田珠実







